拍
拍(はく、英: beat)は、音楽の時間を知覚・演奏・記譜する際の基準となる、規則的に繰り返される時間的な脈動である。一定の間隔で手拍子をしたり、足で刻んだり、メトロノームに合わせて数えたりするときに基準となる周期が、典型的な拍にあたる。
拍は単なる「音符の長さ」ではない。どの音価が1拍に相当するかは拍子や演奏上の解釈によって変わる。
基本概念
Open Music Theoryはbeatを、音楽の中で規則的に反復するpulseとして説明している。拍は、聴取者が曲に合わせて一定周期で身体を動かしたり、演奏者がテンポを共有したりする際の時間基準となる。
たとえば一般的な4/4拍子では、4分音符を1拍として
1 2 3 4
と数える場合が多い。
しかし、拍は常に4分音符と同義ではない。たとえば6/8拍子では、記譜上は8分音符6個から1小節が構成される一方、実際の拍感は通常、付点4分音符2個による2拍として感じられる。
したがって、拍子記号の分母だけを見て「この音符が必ず1拍」と機械的に決めることはできない。
拍と音価
4分音符、8分音符、2分音符などは、記譜上の相対的な長さを表す音価である。
一方、拍は音楽の拍節構造の中で感じられる時間単位である。
この違いは重要である。たとえば、
- 4/4拍子では4分音符1個が1拍として扱われることが多い。
- 2/2拍子では2分音符1個が1拍として扱われることが多い。
- 6/8拍子では付点4分音符1個が1拍として扱われることが多い。
したがって「1拍の音符」という表現は、拍子や拍の取り方を明示しなければ特定の音価を意味しない。
拍とテンポ
テンポは、拍がどの程度の速さで進行するかを表す。
たとえば120 BPM(beats per minute)は、基準とする拍が1分間に120回進行することを意味する。単純化すれば1拍は0.5秒である。
ただし、BPM表記だけでは何を1 beatとして数えているかが明示されない場合がある。楽譜ではしばしば「♩=120」のように音価とテンポを組み合わせて示し、この場合は4分音符を基準として1分間に120回進むことを表す。
拍の分割
拍はさらに細かい時間単位へ分割できる。
単純拍子では、1拍を2等分する構造が基本になる。4/4拍子で4分音符を1拍とする場合、1拍を2等分した位置は8分音符単位となり、その中間位置は日本語で裏拍と呼ばれることが多い。
さらに4等分すれば16分音符単位となる。
一方、複合拍子では1拍を3等分することが基本となる。6/8拍子で付点4分音符を1拍とする場合、その内部は通常3個の8分音符に分割される。
このため、半拍という語は「拍の半分の時間」を意味できるが、必ずしもその拍子の基本的な分割単位と一致するとは限らない。
拍の階層
音楽の時間構造は一つの拍だけで構成されるとは限らない。
拍より細かいレベルにはdivisionやsubdivisionがあり、拍より大きいレベルには小節、さらに複数小節をまとめたハイパーメーターが存在する。
たとえば4/4拍子では、
16分音符レベル ↓ 8分音符レベル ↓ 4分音符レベル(拍) ↓ 小節 ↓ 複数小節のフレーズ
という階層を知覚できる場合がある。
このうち、身体的に最も自然に刻みやすい周期をtactusと呼ぶことがある。非常に速い曲では記譜上の各拍ではなく2拍単位で身体を取ることがあり、逆に遅い曲では拍内部をさらに細かく感じることがある。
強拍と弱拍
拍は時間的に等間隔でも、拍節上の重みは必ずしも等しくない。
4/4拍子では一般に第1拍が最も強い位置として知覚され、他の拍との間に強弱関係が形成される。ポピュラー音楽では第2拍・第4拍へアクセントを置くバックビートも一般的である。
このような拍の階層的な重みは、シンコペーションやオフビートを理解する際の基準になる。
DAWと拍
DAWでは、時間軸が小節・拍・細分化単位で表示されることが多い。
4/4拍子のグリッドでは、たとえば
1.1 1.2 1.3 1.4 2.1
のように小節番号と拍番号を組み合わせて位置を表す。
ただし、DAW内部では拍そのものより細かいtickやPPQ単位でイベント位置を保持している場合が多い。拍はユーザーが音楽的時間を扱うための上位概念であり、内部実装ではさらに細かい離散単位へ変換される。