DAW
DAW(Digital Audio Workstation、デジタル・オーディオ・ワークステーション)は、デジタルオーディオの録音、編集、再生、ミキシング、信号処理などを統合して行うための音声制作環境である。現代では、多くの場合、コンピュータ上で動作する音楽・音声制作用ソフトウェアを指す。[1]
DAWは、複数のオーディオトラックを扱うマルチトラックレコーディング、波形編集、MIDIシーケンシング、ソフトウェア音源、プラグインによる信号処理、ミキシング、オートメーション、完成した音声ファイルのエクスポートなど、音楽・音声制作に必要となる多くの機能を一つの制作環境に統合する。
概要
DAWでは、録音されたオーディオ、サンプル、MIDIデータ、ソフトウェア音源、エフェクト、ミキサー設定などを一つのプロジェクトまたはセッションとして管理する。
一般的なDAWでは、時間軸上にオーディオクリップやMIDIクリップを配置する編集画面と、各トラックの音量、パン、信号処理、ルーティングなどを操作するミキサーが中心的なインターフェースとなる。
DAWによって機能や操作体系は異なるが、現代の多くのDAWは以下のような作業に対応する。
- オーディオ録音
- オーディオ編集
- MIDI録音
- MIDI編集
- クオンタイズ
- プレイバック
- ソフトウェア音源の演奏
- アレンジ
- エフェクト処理
- ミキシング
- オートメーション
- オーディオファイルのインポートおよびエクスポート
- バウンス
- レンダリング
Logic Proも、録音、アレンジ、オーディオおよびMIDIの編集、エフェクト処理、ミキシングなどを一つのアプリケーション内で行う構成を採っている。[2]
DAWが指す範囲
Digital Audio Workstationという語は、歴史的にはハードウェアとソフトウェアを組み合わせたデジタル音声制作システムを含む概念である。
DAWは、単一のソフトウェアから、コンピュータ、オーディオインターフェース、ストレージ、MIDIコントローラー、フィジカルコントローラーなどを統合したシステムまで、複数の構成を取り得る。[3]
現在の日常的な用法では、Ableton Live、Logic Pro、Pro Tools、Cubase、Studio One、REAPERなどのDAWソフトウェアそのものをDAWと呼ぶことが多い。
したがって、「DAWを起動する」「DAWに録音する」「DAW上でミックスする」などの表現では、通常はDAWソフトウェアを指している。
基本機能
オーディオ録音
DAWは、オーディオインターフェースなどから入力された音声信号をデジタルオーディオとして記録する。
一般的なDAWでは、複数のトラックを同時に録音するマルチトラックレコーディングに対応する。
録音対象には、例えば以下がある。
DAWによっては、パンチイン、パンチアウト、ループ録音、複数テイクの管理、コンピングなどの録音機能を備える。
オーディオ編集
録音またはインポートされたオーディオは、時間軸上で編集できる。
代表的な操作には以下がある。
多くのDAWでは、元のオーディオファイルを書き換えずに編集結果を管理する非破壊編集が広く用いられている。
DAW上では、一つのオーディオファイル全体ではなく、その一部を参照する単位が編集対象となることが多い。これらはDAWによってクリップ(Clip)、リージョン(Region)、イベント(Event)など異なる名称で呼ばれる。
MIDI
現代のDAWの多くはMIDIシーケンサーとしての機能を備える。
MIDIトラックでは、例えば以下の情報を記録・編集できる。
MIDIデータは音声そのものではなく、演奏や制御に関する情報である。
DAW内部では、MIDIデータをソフトウェア音源へ送り、シンセサイザー、サンプラー、ドラムマシンなどを演奏させることができる。
ピアノロール、ステップシーケンサー、スコアエディターなどは、MIDIデータを編集するための代表的なインターフェースである。
MIDI編集では、演奏タイミングを一定のグリッドへ補正するクオンタイズ、ノート長の編集、トランスポーズ、ベロシティ編集などが行われる。
アレンジ
DAWでは、オーディオやMIDIのクリップを時間軸上に配置し、楽曲や音声作品の構成を作ることができる。
一般的な時間軸型DAWでは、横方向が時間、縦方向がトラックを表す。
楽曲制作では、この画面上でイントロ、ヴァース、コーラス、ブリッジ、アウトロなどの構成を編集できる。
一部のDAWでは、直線的な時間軸とは異なるクリップベース、パターンベース、シーンベースなどの制作方法も用いられる。
Ableton LiveはSession ViewとArrangement Viewという異なる作業画面を持ち、クリップやシーンを用いた非線形的な制作・演奏と、時間軸上のアレンジの双方に対応する。
プレイバック
プレイバックは、DAW上のオーディオ、MIDI、ソフトウェア音源、プラグイン処理などを再生する操作または機能である。
再生位置はトランスポートによって制御され、一般的には以下の操作を含む。
ミキシング
DAWには通常、ミキシングコンソールに相当する機能が組み込まれている。
各トラックでは、例えば以下を操作できる。
複数の信号をまとめるために、バス、Aux、Return、グループトラックなどのチャンネルが使用される場合もある。
最終的な信号はマスタートラック、Main、Stereo Outなどと呼ばれる出力チャンネルへ送られることが多い。
プラグイン
DAWは、外部または付属のプラグインをホストし、音声処理やソフトウェア音源を追加できる。
代表的な用途には以下がある。
- イコライザー(EQ)
- コンプレッサー
- リミッター
- ゲート
- エキスパンダー
- リバーブ
- ディレイ
- コーラス
- フランジャー
- フェイザー
- ディストーション
- サチュレーション
- ピッチ補正
- ノイズリダクション
- シンセサイザー
- サンプラー
- ドラムマシン
プラグインは、音声を処理するオーディオエフェクト、音を生成するインストゥルメントプラグイン、解析やメータリングを行うアナライザーなどに分類できる。
主要なプラグイン規格には、VST、Audio Units、AAXなどがある。
VST 3はSteinbergによって仕様およびSDKが提供されるプラグイン規格である。[4]
Audio UnitsはAppleのオーディオプラグイン規格であり、macOSやiOS上の対応アプリケーションおよびDAWで利用される。[5]
AAXはAvidによるプラグイン規格で、Pro Toolsなどで使用される。[6]
対応するプラグイン形式はDAWおよびオペレーティングシステムによって異なる。
オートメーション
オートメーションは、時間経過に伴うパラメータ変化を記録または指定する機能である。
例えば、
などを楽曲の進行に合わせて変化させることができる。
DAWによっては、Write、Read、Touch、Latchなど複数のオートメーションモードを備える。
レンダリングと書き出し
制作したプロジェクトは、最終的にオーディオファイルとして書き出すことができる。
この処理はDAWによって、エクスポート、バウンス、レンダリングなどと呼ばれる。
書き出しはリアルタイムで行われる場合と、再生速度より高速なオフラインレンダリングとして行われる場合がある。
書き出し形式には、WAV、AIFF、FLAC、MP3などが使用される。
プロジェクトの構造
DAWでは、一つの制作物に関係する情報をプロジェクトまたはセッションとして保存する。
一般的なプロジェクトには、以下のような要素が含まれる。
オーディオファイル自体とDAWのプロジェクトファイルは別のファイルとして管理される場合が多い。
DAWのプロジェクト形式は製品ごとに異なり、異なるDAW間でプロジェクト全体を完全に互換することは一般に容易ではない。
異なるDAW間でデータを受け渡すため、ステム、MIDIファイル、AAF、OMFなどが使用される場合がある。
オーディオエンジン
DAW内部では、オーディオエンジンが複数の音声ストリームを処理する。
リアルタイム再生時には、オーディオファイルの再生、ソフトウェア音源の生成、プラグイン処理、ミキシング、ルーティングなどが継続的に計算される。
DAWの動作には、主に以下の要素が関係する。
録音やソフトウェア音源の演奏では、入力から出力までのレイテンシーが演奏性に影響する。
一般に、オーディオバッファを小さくするとレイテンシーを短縮できる一方、一定時間内に処理を完了するためにコンピュータへ要求されるリアルタイム処理性能は高くなる。
ハードウェアとの関係
コンピュータ上で動作するDAWでは、外部のオーディオインターフェースを使用してアナログオーディオやデジタルオーディオを入出力することが多い。
典型的な構成は次のようになる。
マイク / 楽器
↓
オーディオインターフェース
↓
DAW
↓
オーディオインターフェース
↓
モニタースピーカー / ヘッドフォン
MIDIキーボード、パッドコントローラー、フィジカルコントローラーなどを接続してDAWを操作することもできる。
DAWそのものとオーディオインターフェースは別の機能を持つ。DAWが録音・編集・処理・ミキシング等を担当するのに対し、オーディオインターフェースは主としてコンピュータと外部音響機器との音声入出力を担う。
DAWと他のソフトウェア
オーディオエディター
オーディオエディターは、主として一つまたは少数のオーディオファイルを波形単位で編集することに重点を置くソフトウェアである。
DAWも高度な波形編集機能を持つことが多いため、両者の機能には重複がある。
MIDIシーケンサー
MIDIシーケンサーは、MIDIデータの記録、編集、再生を行うシステムである。
パーソナルコンピュータ上の音楽制作システムでは、MIDIシーケンサーとデジタルオーディオ録音機能が歴史的に統合され、現在のDAWへ発展してきた。
マルチトラックレコーダー
マルチトラックレコーダーは複数の音声トラックを記録・再生する装置またはシステムである。
DAWはマルチトラック録音機能を備える一方、編集、MIDI、プラグイン、ミキシング、オートメーションなど、より広い制作機能を統合することが一般的である。
楽譜作成ソフトウェア
楽譜作成ソフトウェアは、楽譜の入力、編集、浄書、出版などを主要な目的とする。
DAWにもスコアエディターが搭載される場合があり、楽譜作成ソフトウェアにも音声再生やソフトウェア音源が搭載されるため、機能の一部は重複する。
モバイル音楽制作アプリ
スマートフォンやタブレット上で動作する音楽制作アプリにも、DAWとして扱えるものがある。
例えばKORG Gadgetは、複数のソフトウェア音源、シーケンサー、ミキサー、エフェクトなどを統合した音楽制作環境を提供する。
モバイル環境では、タッチ操作、携帯性、内蔵マイクやUSBオーディオ機器との接続など、デスクトップ環境とは異なる制作方法が用いられる場合がある。
歴史
デジタル音声をコンピュータ上で編集するシステムは1970年代から開発されていたが、当時はストレージ容量、処理性能、ハードウェア価格などの制約が大きかった。
1980年代後半から1990年代にかけて、パーソナルコンピュータの性能向上、デジタルオーディオ技術、ハードディスクレコーディング、MIDIなどの発展によって、コンピュータを中心としたDAWが実用化されていった。Yamahaは、現代的なコンピュータベースDAWの成立を、パーソナルコンピュータ、デジタルオーディオ録音、MIDIの発展が重なった結果として説明している。[7]
DigidesignのSound Toolsは1980年代末に登場した初期の商用デジタルオーディオ制作システムの一つで、後のPro Toolsへ発展した。[1]
その後、コンピュータのCPU性能、メモリ容量、ストレージ速度が向上し、従来は専用ハードウェアで行われていた多くの処理がコンピュータ内部で実行可能になった。
現在では、録音、編集、MIDIシーケンシング、ソフトウェア音源、エフェクト処理、ミキシングなどの機能を単一のDAW上で行うことが一般的になっている。
主なDAW
DAWには多数の製品が存在する。
代表例として以下がある。
- Ableton Live
- Ardour
- Bitwig Studio
- Cubase
- Digital Performer
- FL Studio
- KORG Gadget
- Logic Pro
- Nuendo
- Pro Tools
- REAPER
- Studio One
各DAWは、編集方法、ルーティング、MIDI機能、オーディオ編集、ライブパフォーマンス、映像同期などについて異なる設計を持つ。
DAWの基本原理は共通している一方、操作体系や制作ワークフローは製品によって大きく異なる。
用途
DAWは音楽制作以外を含む幅広い音声制作で使用される。
関連項目
- デジタルオーディオ
- オーディオインターフェース
- MIDI
- MIDIシーケンサー
- マルチトラックレコーディング
- ミキシング
- オートメーション
- プラグイン
- VST
- Audio Units
- AAX
- ソフトウェア音源
- サンプリング周波数
- 量子化ビット数
- バッファサイズ
- レイテンシー
- クオンタイズ
- プレイバック
- バウンス
- レンダリング
脚注
- ↑ 1.0 1.1 What is a DAW? Your guide to digital audio workstations, Avid.
- ↑ What is Logic Pro?, Apple.
- ↑ DAW - Digital Audio Workstation, PreSonus.
- ↑ VST 3 Developer Portal, Steinberg.
- ↑ Audio - Audio Unit Plug-ins, Apple Developer.
- ↑ AAX SDK, Avid.
- ↑ The History of the DAW, Yamaha.