全音符: Difference between revisions

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全音符の音価、記譜法、拍子との関係を解説
 
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全音符の固定音価と小節相対的用法を区分して加筆
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'''全音符'''(ぜんおんぷ、英: ''whole note'')は、[[音符]]の長さを表す基本的な音価の一つである。[[2分音符]]2個、[[4分音符]]4個、[[8分音符]]8個、[[16分音符]]16個と同じ長さを持つ。
'''全音符'''(ぜんおんぷ、英: ''whole note''、英: ''semibreve'')は、五線記譜で用いられる基本的な[[音符]]の一つである。現代の標準的な音価体系では、[[2分音符]]2個、[[4分音符]]4個、[[8分音符]]8個、[[16分音符]]16個に相当する。


== 音価 ==
一方、「whole(全体)」を何に対する全体とみなすかについては、記譜の歴史、慣例、楽曲の拍節構造によって異なる見方が存在する。本項では説明のため、全音符を拍子から独立した固定的な相対音価として扱う見方を'''絶対音価説(固定音価説)'''、小節または一区間全体との関係から解釈する見方を'''相対音価説(小節相対説)'''と呼ぶ。これらの名称は、本項で議論を整理するための分類である。
全音符は、分数型の名称を持つ多くの音価の基準となる。[[2分音符]]は全音符の2分の1、[[4分音符]]は4分の1、[[8分音符]]は8分の1、[[16分音符]]は16分の1、[[32分音符]]は32分の1、[[64分音符]]は64分の1である。


この関係は相対的な音価を示すものであり、全音符そのものに固定された秒数があるわけではない。実際の時間長は[[テンポ]]によって決まる。
== 基本的な音価 ==
現代の一般的な拍節記譜では、全音符1個は[[2分音符]]2個、[[4分音符]]4個、[[8分音符]]8個、[[16分音符]]16個、[[32分音符]]32個、[[64分音符]]64個と同じ相対音価を持つ。


== 「1小節」とは限らない ==
この関係は秒数を固定するものではない。実際に何秒間持続するかは[[テンポ]]によって変わる。
4/4拍子では、全音符1個が4分音符4拍に相当するため、ちょうど1小節を満たす。


しかし、'''全音符=常に1小節'''ではない。たとえば3/4拍子の1小節は4分音符3個分であり、全音符はそれより長い。2/2拍子では2分音符2拍分として1小節を満たす。
MusicXMLでも、記譜上の音価として <code>whole</code>、<code>half</code>、<code>quarter</code> などが区別されており、現代の楽譜処理ではこの固定的な音価階層が基本となっている。


音符の音価と、小節の長さを決める[[拍子記号]]は別の概念である。
== 全音符と「whole」の解釈 ==
=== 絶対音価説(固定音価説) ===
絶対音価説では、全音符の記号は拍子にかかわらず一定の相対音価を表すと考える。ここでいう「絶対」は、秒単位の実時間が一定という意味ではなく、'''記譜体系上、4分音符4個分という比例関係が拍子によって変化しない'''という意味である。


なお、[[全休符]]には、拍子に関係なく1小節全体の休止を示すために用いられる慣習があるため、全音符と全休符では「1小節」との関係が同一ではない。
この見方では、4/4拍子では全音符1個がちょうど1小節を満たすが、3/4拍子では全音符は小節より4分音符1個分長く、5/4拍子では逆に小節より4分音符1個分短い。
 
したがって、3/4拍子で1小節全体に同じ音を持続させる標準的な記譜は[[付点音符|付点2分音符]]であり、小節線を越えて持続する場合には[[タイ]]を用いる。
 
現代の音楽理論教育、楽譜作成ソフトウェア、MusicXMLなどでは、この理解が基本的な規則として採用されている。
 
=== 相対音価説(小節相対説) ===
相対音価説では、「whole」を固定した一種類の音価だけではなく、'''その小節または音楽的一区間の全体'''との関係から捉える。
 
この考え方には歴史的な根拠がある。1874年、音楽教育者John Hullahは ''On Musical Nomenclature'' において、semibreveを「絶対的なwhole note」とみなすドイツ系の名称体系を批判し、whole noteを「一小節全体を満たす、または一小節を構成するだけの拍数を要する音」と考える定義を提示した。Hullahは、その場合には時代や拍節によってbreve、semibreve、minim、crotchetのいずれもwhole noteになり得ると論じている。
 
また、自由リズムを含む一部の実際の記譜では、semibreveの形が固定された4分音符4個分ではなく、'''その小節全体または一区間全体を担う音'''として用いられる。Anglican chantでは、1小節にsemibreveが1個だけ記され、その小節に対応する複数の語をすべてその音高で歌うという用法が知られている。
 
このような記譜では、記号の幾何学的な形だけから音価を機械的に決定するのではなく、[[拍子記号]]、小節線、他声部、反復箇所、ジャンル上の慣習などを含む文脈から持続時間を解釈する。
 
== 両説と実際の楽譜 ==
両説は必ずしも互いに完全に排他的ではない。現代の通常の拍節記譜を読み書きする際には絶対音価説が基本規則として機能する一方、歴史的記譜、自由リズム、特殊な慣用記譜、あるいは標準規則だけでは譜面の意味を説明できない場合には、小節相対的な解釈が妥当となることがある。
 
たとえば、明確に3/4拍子で進行する楽譜の各小節にsemibreveが1個ずつ置かれ、他の記譜から各音が小節線を越えて持続するとは考えにくい場合、そのsemibreveを「4分音符4個分」と機械的に演奏するより、「その小節全体を持続する音」と解釈する方が楽曲全体と整合する場合がある。
 
極端な思考例として、512/4拍子の1小節にCのsemibreveが1個だけ置かれ、それが明らかに小節全体を占める記譜として用いられているなら、相対音価説ではそのCは4分音符512個分の持続として解釈される。一方、絶対音価説を厳密に適用すればsemibreve自体は4分音符4個分であり、残りの小節は別途記譜される必要がある。
 
したがって、具体的な譜面の解釈では、記号単体の一般規則だけでなく、その記号がどのような記譜体系・慣例・文脈の中で使用されているかが重要となる。
 
== 全休符との比較 ==
[[全休符]]では、この問題がさらに明確である。全休符と同じ形の記号は、現代の標準記譜でも'''全小節休符'''として用いられ、3/4なら4分音符3個分、5/4なら4分音符5個分というように、その小節全体を休む意味を持つことがある。
 
全音符については、このような「全小節を表す」用法は全休符ほど一般的な標準規則ではない。しかし、歴史的・ジャンル的・自由リズム的な記譜では実在するため、「全音符は常に小節とは無関係である」と排他的に説明することも適切ではない。


== 記譜 ==
== 記譜 ==
全音符は、白抜きの楕円形の符頭からなり、通常は符幹を持たない。旗や[[連桁]]も付かない。
全音符の一般的な記号は、白抜きの楕円形の符頭からなり、通常は符幹を持たない。旗や[[連桁]]も付かない。
 
[[2分音符]]は白抜き符頭に符幹を加えた形、[[4分音符]]はさらに符頭を塗りつぶした形となる。[[8分音符]]以下では旗または連桁が加わる。


[[2分音符]]は白抜き符頭に符幹を加えた形、[[4分音符]]はさらに符頭を塗りつぶした形となる。そこから[[8分音符]]以下では旗または連桁が加わっていく。
== 名称と歴史 ==
アメリカ英語では''whole note''、イギリス英語では''semibreve''と呼ばれる。''whole note''という名称はドイツ語''ganze Note''に対応する体系で、2分音符、4分音符、8分音符などの名称も全音符を基準とした比例関係を表す。


== 英語名称 ==
一方、''semibreve''という名称は中世・ルネサンス期の[[定量記譜法]]に由来し、現代の「whole」という語義とは異なる歴史的背景を持つ。この名称体系そのものについては19世紀にも批判と再検討が行われていた。
アメリカ英語では''whole note''、イギリス英語では''semibreve''と呼ばれる。MusicXMLでは、記譜上の音価は <code>whole</code> として表される。


[[倍全音符]](breve)は全音符2個分の音価を持ち、さらに長い音価としてlong、maximaなども歴史的・記譜上存在する。
[[倍全音符]](breve)は現代の標準的な音価体系では全音符2個分に相当する。


== 参考資料 ==
== 参考資料 ==
* [https://www.w3.org/2021/06/musicxml40/musicxml-reference/data-types/note-type-value/ W3C MusicXML 4.0: note-type-value]
* [https://www.w3.org/2021/06/musicxml40/musicxml-reference/data-types/note-type-value/ W3C MusicXML 4.0: note-type-value]
* [https://www.w3.org/2021/06/musicxml40/tutorial/hello-world/ W3C MusicXML 4.0: Hello World]
* [https://www.cambridge.org/core/journals/proceedings-of-the-musical-association/article/abs/on-musical-nomenclature/62BB070F8B072781559B03BA52239B1C John Hullah, “On Musical Nomenclature,” Proceedings of the Musical Association, vol. 1 (1874), pp. 74–87]
* [https://en.wikipedia.org/wiki/Anglican_chant Anglican chant — semibreveを1小節単位で用いる記譜例]
* [https://viva.pressbooks.pub/openmusictheorycopy/chapter/rhythmic-rest-values/ Open Music Theory: Rhythmic and Rest Values]
* [https://viva.pressbooks.pub/openmusictheorycopy/chapter/rhythmic-rest-values/ Open Music Theory: Rhythmic and Rest Values]

Revision as of 20:07, 25 September 2026

全音符(ぜんおんぷ、英: whole note、英: semibreve)は、五線記譜で用いられる基本的な音符の一つである。現代の標準的な音価体系では、2分音符2個、4分音符4個、8分音符8個、16分音符16個に相当する。

一方、「whole(全体)」を何に対する全体とみなすかについては、記譜の歴史、慣例、楽曲の拍節構造によって異なる見方が存在する。本項では説明のため、全音符を拍子から独立した固定的な相対音価として扱う見方を絶対音価説(固定音価説)、小節または一区間全体との関係から解釈する見方を相対音価説(小節相対説)と呼ぶ。これらの名称は、本項で議論を整理するための分類である。

基本的な音価

現代の一般的な拍節記譜では、全音符1個は2分音符2個、4分音符4個、8分音符8個、16分音符16個、32分音符32個、64分音符64個と同じ相対音価を持つ。

この関係は秒数を固定するものではない。実際に何秒間持続するかはテンポによって変わる。

MusicXMLでも、記譜上の音価として whole、half、quarter などが区別されており、現代の楽譜処理ではこの固定的な音価階層が基本となっている。

全音符と「whole」の解釈

絶対音価説(固定音価説)

絶対音価説では、全音符の記号は拍子にかかわらず一定の相対音価を表すと考える。ここでいう「絶対」は、秒単位の実時間が一定という意味ではなく、記譜体系上、4分音符4個分という比例関係が拍子によって変化しないという意味である。

この見方では、4/4拍子では全音符1個がちょうど1小節を満たすが、3/4拍子では全音符は小節より4分音符1個分長く、5/4拍子では逆に小節より4分音符1個分短い。

したがって、3/4拍子で1小節全体に同じ音を持続させる標準的な記譜は付点2分音符であり、小節線を越えて持続する場合にはタイを用いる。

現代の音楽理論教育、楽譜作成ソフトウェア、MusicXMLなどでは、この理解が基本的な規則として採用されている。

相対音価説(小節相対説)

相対音価説では、「whole」を固定した一種類の音価だけではなく、その小節または音楽的一区間の全体との関係から捉える。

この考え方には歴史的な根拠がある。1874年、音楽教育者John Hullahは On Musical Nomenclature において、semibreveを「絶対的なwhole note」とみなすドイツ系の名称体系を批判し、whole noteを「一小節全体を満たす、または一小節を構成するだけの拍数を要する音」と考える定義を提示した。Hullahは、その場合には時代や拍節によってbreve、semibreve、minim、crotchetのいずれもwhole noteになり得ると論じている。

また、自由リズムを含む一部の実際の記譜では、semibreveの形が固定された4分音符4個分ではなく、その小節全体または一区間全体を担う音として用いられる。Anglican chantでは、1小節にsemibreveが1個だけ記され、その小節に対応する複数の語をすべてその音高で歌うという用法が知られている。

このような記譜では、記号の幾何学的な形だけから音価を機械的に決定するのではなく、拍子記号、小節線、他声部、反復箇所、ジャンル上の慣習などを含む文脈から持続時間を解釈する。

両説と実際の楽譜

両説は必ずしも互いに完全に排他的ではない。現代の通常の拍節記譜を読み書きする際には絶対音価説が基本規則として機能する一方、歴史的記譜、自由リズム、特殊な慣用記譜、あるいは標準規則だけでは譜面の意味を説明できない場合には、小節相対的な解釈が妥当となることがある。

たとえば、明確に3/4拍子で進行する楽譜の各小節にsemibreveが1個ずつ置かれ、他の記譜から各音が小節線を越えて持続するとは考えにくい場合、そのsemibreveを「4分音符4個分」と機械的に演奏するより、「その小節全体を持続する音」と解釈する方が楽曲全体と整合する場合がある。

極端な思考例として、512/4拍子の1小節にCのsemibreveが1個だけ置かれ、それが明らかに小節全体を占める記譜として用いられているなら、相対音価説ではそのCは4分音符512個分の持続として解釈される。一方、絶対音価説を厳密に適用すればsemibreve自体は4分音符4個分であり、残りの小節は別途記譜される必要がある。

したがって、具体的な譜面の解釈では、記号単体の一般規則だけでなく、その記号がどのような記譜体系・慣例・文脈の中で使用されているかが重要となる。

全休符との比較

全休符では、この問題がさらに明確である。全休符と同じ形の記号は、現代の標準記譜でも全小節休符として用いられ、3/4なら4分音符3個分、5/4なら4分音符5個分というように、その小節全体を休む意味を持つことがある。

全音符については、このような「全小節を表す」用法は全休符ほど一般的な標準規則ではない。しかし、歴史的・ジャンル的・自由リズム的な記譜では実在するため、「全音符は常に小節とは無関係である」と排他的に説明することも適切ではない。

記譜

全音符の一般的な記号は、白抜きの楕円形の符頭からなり、通常は符幹を持たない。旗や連桁も付かない。

2分音符は白抜き符頭に符幹を加えた形、4分音符はさらに符頭を塗りつぶした形となる。8分音符以下では旗または連桁が加わる。

名称と歴史

アメリカ英語ではwhole note、イギリス英語ではsemibreveと呼ばれる。whole noteという名称はドイツ語ganze Noteに対応する体系で、2分音符、4分音符、8分音符などの名称も全音符を基準とした比例関係を表す。

一方、semibreveという名称は中世・ルネサンス期の定量記譜法に由来し、現代の「whole」という語義とは異なる歴史的背景を持つ。この名称体系そのものについては19世紀にも批判と再検討が行われていた。

倍全音符(breve)は現代の標準的な音価体系では全音符2個分に相当する。

参考資料