矩形波
矩形波(rectangular wave)は、一定時間ごとに2つのレベルを切り替える周期波形である。2つのレベルに滞在する時間が等しく、デューティ比が50%の矩形波は特にSquare wave(方形波、スクエア波)と呼ばれる。
シンセサイザーではSquare、Pulse、Rectangleなどの名称で基本オシレーター波形として広く使われ、減算合成、パルス幅変調、LFO、クロック信号などに利用される。
基本形
矩形波は1周期の中で高レベルと低レベルを切り替える。
50%デューティの理想Square waveでは、
- 周期の半分が高レベル
- 残り半分が低レベル
となる。
この波形は時間領域に不連続な立ち上がり・立ち下がりを持つ。
理想的な不連続を完全に表現するには無限に高い周波数成分が必要になるため、現実のアナログ回路やデジタルオーディオでは立ち上がり時間が有限になり、完全な数学的矩形波にはならない。
Square wave と rectangular wave
日常的なシンセサイザー用語では「矩形波」と「Square wave」がほぼ同義に扱われる場合も多い。
厳密には、Square waveは50%デューティの矩形波であり、デューティ比が50%以外の波形は一般にパルス波またはrectangular waveとして扱える。
たとえば、
- 50% : Square wave
- 25% : 狭い高レベル区間を持つPulse wave
- 10% : より細いパルス
となる。
デューティ比を連続的に変えると倍音構成も変化する。
周波数成分
理想的な50%デューティの対称Square waveは、基本周波数と奇数次倍音から構成される。
振幅±1の代表的なSquare waveは概念的に、
x(t) = (4/π)[sin(ωt) + (1/3)sin(3ωt) + (1/5)sin(5ωt) + ...]
と表せる。
つまり、
- 基音
- 3次倍音
- 5次倍音
- 7次倍音
- …
を含み、n次の奇数倍音振幅はおおむね1/nで減少する。
MathWorldもSquare waveのフーリエ級数を奇数次成分のみの級数として示している。[1]
デューティ比とスペクトル
50%からデューティ比を変えると、Square waveに見られる奇数次だけという対称性が崩れ、偶数次倍音も現れる。
Pulse widthが狭くなるほど、多数の高次倍音が比較的強く含まれる。
そのためシンセサイザーでは、Pulse widthを音色パラメーターとして扱う。
Pulse widthを時間的に変調するのがPulse Width Modulationである。
音色
50% Square waveは、サイン波より多くの倍音を含むが、ノコギリ波より倍音密度が低い。
一般には、
- 中空感
- 木管的
- クラリネット的
- 硬質
- 明瞭
などと形容されることがある。
ただし音色はフィルター、エンベロープ、ピッチ、PWM、ユニゾンなどによって大きく変化する。
Square waveにローパスフィルターを適用すると高次倍音が削られ、丸みのある波形・音色へ近づく。
Subtractive synthesis
減算合成では、倍音を含む矩形波をフィルターへ通し、不要な周波数成分を減衰させて音色を形成する。
Square waveは奇数次倍音が中心なので、Sawtoothとは異なるフィルター応答を得られる。
低いカットオフでは高次倍音が削られ、最終的には基音成分が支配的になり、サイン波に近いスペクトルへ向かう。
PWM
パルス幅変調は、矩形波のデューティ比を時間的に変化させる手法である。
典型的にはLFOやエンベロープをPulse Widthへ入力する。
PWMを行うと各倍音の振幅が時間的に変化し、単純なオシレーター1基でも厚みや動きのある音色を作れる。
アナログポリシンセ、ストリングス系、パッド系で代表的な手法である。
デューティ比が極端に狭くなるとDC成分や平均値の変化も大きくなり、実装によってはレベル感も変化する。
LFOとしての矩形波
矩形波をLFOとして使うと、変調先のパラメーターが2つの値の間を瞬時に切り替えるような動作になる。
たとえば、
- ピッチを2音間で交互に切り替える
- フィルターカットオフをHigh/Lowで交互に切り替える
- パンを左右へ切り替える
- ゲート的な音量変調を行う
など。
Native InstrumentsはSquare LFOを、値が滑らかに移動するのではなく2つの状態間をジャンプする波形として説明している。[2]
アナログシンセサイザーでの生成
アナログオシレーターでは、矩形波は比較的生成しやすい。
代表的には、
- コンパレーターで三角波やノコギリ波を閾値比較する
- フリップフロップやロジック回路で分周する
- relaxation oscillatorから直接生成する
など。
ノコギリ波や三角波を比較器へ入力し、閾値を変えることでPulse Widthを制御する設計も多い。
この場合、比較閾値をLFOやエンベロープで変調すればPWMを実現できる。
デジタル生成とaliasing
数学的な矩形波には無限に高い奇数次倍音が存在する。
デジタルオーディオではナイキスト周波数より高い倍音をそのまま生成すると、折り返してエイリアシングになる。
そのためデジタルシンセサイザーでは、
- band-limited wavetable
- additive resynthesis
- BLEP / PolyBLEP
- BLIT
- oversampling
などを使って帯域制限された矩形波を生成することがある。
Ableton LiveのOperatorでもsquareやsawtoothは理想波形そのものではなく、倍音数を制限したresynthesized approximationとして実装され、倍音数が少ない波形ほど高音域でaliasingを起こしにくいと説明されている。[3]
Cycling '74もデジタルシンセサイザーのsquare、triangle、sawtoothでは、ナイキスト周波数を超える高調波を避けるためanti-aliased / band-limited oscillatorを使うことを説明している。[4]
Gibbs phenomenon
有限数のサイン波だけで理想Square waveを近似すると、不連続点の周辺にオーバーシュートとリンギングが現れる。
これはギブス現象と呼ばれる。
高調波数を増やすと不連続点以外の近似は改善するが、不連続近傍のオーバーシュートが単純に消えるわけではない。
この現象はフーリエ級数による波形合成の代表例である。
DC成分
上下のレベルが+1と-1でデューティ50%なら平均値は0で、DC成分を持たない。
一方、
- High/Lowが非対称
- デューティ比が50%でない
- 0〜+1のように片側だけのレベルで生成
といった矩形波では平均値が0でなく、DC成分を持つ。
オーディオ信号として使う場合はAC couplingやDC blockingが必要になることがある。
同期・クロック用途
矩形波は立ち上がり・立ち下がり位置が明確なため、オーディオ以外でもクロック、トリガー、ゲート信号に広く使われる。
モジュラーシンセでは、
- Gate
- Trigger
- Clock
- Sync pulse
などが矩形パルスとして扱われる。
ただし、これらは音声波形としてのSquare waveとは電圧範囲や目的が異なる。
極性と位相
Square waveを時間方向に半周期ずらすと極性が反転したように見える。
一方、Pulse Widthが50%でない矩形波では単純な180°位相反転と極性反転の関係が直感的でない場合がある。
複数オシレーターを加算する場合、位相関係によって一部倍音が強調・相殺される。
他の基本波形との比較
| 波形 | 理想的な倍音構成 | 特徴 |
|---|---|---|
| サイン波 | 基本周波数のみ | 最も単純 |
| Square wave(デューティ比50%) | 奇数次倍音中心 | 中空で明瞭 |
| ノコギリ波 | 整数次倍音全体 | 明るく密度が高い |
| 三角波 | 奇数次倍音、1/n²程度で減衰 | より柔らかい |