TRS

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TRS(ティー・アール・エス、英: Tip-Ring-Sleeve)とは、フォーンコネクタ(フォーンプラグ/フォーンジャック)のうち、先端から順にチップ(Tip)、リング(Ring)、スリーブ(Sleeve)の3つの接点を持つ形式である。3極のフォーンコネクタとも呼ばれる。[1]

「TRS」は接点の数と配置を表す名称であり、特定の信号形式を表す名称ではない。同じ形状のTRSコネクタが、バランスのモノラル信号、アンバランスのステレオ信号、ミキサーのインサート、エクスプレッションペダル、MIDIなど、互いに異なる用途と配線で使用されている。[1]

日本では、6.35 mmのTRSプラグを「ステレオフォン」「ステレオ標準プラグ」、3.5 mmのTRSプラグを「ステレオミニプラグ」と呼ぶことが多い。ただし、後述するように、TRSは必ずしもステレオ信号を意味しない。

構造

TRSプラグは円筒形で、先端側から次の順に3つの導体が並ぶ。

Tip     先端
Ring    中間
Sleeve  根元側

各導体の間は絶縁リングで隔てられている。TRSプラグには絶縁リングが2本あり、絶縁リングが1本のTSプラグとは外観で区別できる。[1]

フォーンコネクタには、接点の数によって次のような種類がある。[1]

名称 接点数 絶縁リング 主な用途
TS 2 1本 アンバランス・モノラル(ギターなど)
TRS 3 2本 バランス・モノラル、アンバランス・ステレオなど
TRRS 4 3本 マイク付きヘッドセット、携帯電話、タブレットなど

サイズ

TRSコネクタには複数のサイズがある。

通称 スリーブ外径 主な用途
標準 6.35 mm(1/4インチ) 楽器、業務用機器のライン入出力、ヘッドフォン出力
ミニ 3.5 mm ヘッドフォン、携帯機器、TRS MIDI
サブミニ 2.5 mm 小型機器、TRS MIDI
TT(Tiny Telephone)/バンタム 4.4 mm TTパッチベイ

3.5 mmと2.5 mmは、アメリカではそれぞれ1/8インチ、3/32インチと表記されることがあるが、これらは近似値である。[2]

TT(バンタム)は、パッチベイで用いられる小型の3極プラグである。[3] 6.35 mmの標準TRSとは寸法が異なるため、相互に差し替えて使用することはできない。

歴史

フォーンコネクタは、19世紀の電話交換機に由来する。6.35 mm(1/4インチ)の形式は、1877年にボストンで設置された電話交換機、あるいは1878年にニューヘイブンで開設された商用の手動電話交換局にさかのぼるとされる。[2]

受け口を「ジャック」と呼ぶのは、チャールズ・E・スクリブナーが考案した、折りたたみナイフ(ジャックナイフ)に似たスプリング式接点に由来するとされる。[2]

3.5 mmの3極形式は、1979年にウォークマンへ採用されたことを機に広く普及した。[2]

主な用途と配線

TRSでは、同じ形状のコネクタに対して、用途ごとに異なる配線規則が使われている。代表的な例は次のとおりである。

用途 Tip Ring Sleeve
バランス・モノラル Hot(+) Cold(−) グラウンド/シールド
アンバランス・ステレオ L(左) R(右) 共通グラウンド
インサート(一般的な例) Send Return 共通グラウンド
エクスプレッションペダル(一例) ワイパー 可変抵抗の一端 可変抵抗の他端
TRS MIDI(Type A) DIN 5ピン(Sink) DIN 4ピン(Source) DIN 2ピン(シールド)

バランス・モノラル

バランス接続では、TipをHot(正相)、RingをCold(逆相)、Sleeveをグラウンド(シールド)とする配線が一般的である。[4][5]

Tip     Hot(+)
Ring    Cold(−)
Sleeve  グラウンド/シールド

オーディオインターフェースのライン入出力、モニタースピーカーの入力、ミキサーやアウトボード機器のライン入出力などで広く使用されている。[1]

バランス接続では、HotとColdの2本の信号線が同じシールド内を並んで通る。外部から混入するノイズは2本の線にほぼ等しく乗るため、受け側の差動入力がHotとColdの差を取り出すと、共通に乗ったノイズは打ち消される。この性質により、アンバランス接続より長い距離を引き回しやすい。

なお、バランス出力には、ColdにHotと逆相の信号を出力する方式のほか、Coldには信号を出力せず、Hot側とインピーダンスだけを揃える方式もある。いずれの場合も、ノイズの除去は受け側の差動入力によって行われる。

XLRとの対応

TRSとXLRを変換するバランスケーブルでは、一般に次のように配線する。[5]

XLR           TRS
Pin 1  -----  Sleeve(シールド)
Pin 2  -----  Tip(Hot)
Pin 3  -----  Ring(Cold)

XLR側でピン3をHotとする古い機器と接続する場合には、極性を反転した配線が必要になる。[5]

アンバランス・ステレオ

ヘッドフォンなどのステレオ用途では、Tipを左チャンネル、Ringを右チャンネル、Sleeveを両チャンネル共通のグラウンドとする。[2]

Tip     L(左)
Ring    R(右)
Sleeve  共通グラウンド

ヘッドフォンは3.5 mmのTRSプラグを使用するものが多く、6.35 mmのヘッドフォン出力に接続するには変換アダプタが必要になる。[1]

ステレオ用のTRSとバランス・モノラル用のTRSは同じコネクタを使用するが、互いに直接接続するようには設計されていない。接続した場合、ステレオの一方のチャンネルが失われるなどの問題が生じる。[1]

インサート

ミキサーのインサート端子では、1つのTRSジャックでセンド(送り)とリターン(戻り)を兼ねる構成が広く使われている。一般的な配線は次のとおりである。[6]

Tip     Send(ミキサー → 外部機器)
Ring    Return(外部機器 → ミキサー)
Sleeve  共通グラウンド

インサートケーブルは、一端がTRSプラグ、もう一端が2本のTSプラグに分岐したY字型のケーブルである。Send側のプラグを外部機器の入力へ、Return側のプラグを外部機器の出力へ接続する。[6]

SendとReturnが1つのグラウンドを共有するため、インサートの各経路はアンバランスとなる。多くのミキサーはTipをSend、RingをReturnとしているが、すべての機器が同じ割り当てではないため、機器のマニュアルで確認する必要がある。[7]

インサートジャックは通常ノーマル接続になっており、プラグを挿入していないときは信号がそのまま内部を通過し、プラグを挿入すると信号経路が外部へ切り替わる。[7]

TRS–TRSのバランスケーブルは、TipとRingを別々のプラグへ分岐しないため、インサートケーブルの代わりにはならない。

エクスプレッションペダル

エクスプレッションペダルは、内部の可変抵抗器(ポテンショメーター)の抵抗値の変化によって、接続先の機器のパラメーターを操作する。可変抵抗器の3つの端子をTRSの3つの接点に割り当てるため、TRS接続が必要であり、TSケーブルでは正しく動作しない。[8]

例えばElectro-Harmonixは、可変抵抗器の一端をRing、他端をSleeve、ワイパー(可動端子)をTipへ接続する配線を採用している。[8]

しかし、エクスプレッションペダルの配線に統一規格はなく、ワイパーをRingへ接続する機器もある。[9] このため、Tip側とRing側の割り当てを切り替える極性スイッチを備えたエクスプレッションペダルもある。[8] また、TS接続を前提としたエクスプレッション入力を持つ機器もある。[10]

フットスイッチでは、TRSケーブル1本で2つのスイッチを接続できる機器もある。[11]

TRS MIDI

小型の機器では5ピンDINコネクタを搭載する場所の確保が難しいため、多くのメーカーが2.5 mmまたは3.5 mmのTRSコネクタをMIDI端子として使用するようになった。しかし、TRSでMIDIを接続するための仕様が存在しなかったため、機器ごとに配線が異なり、互換性が保証されない状況が生じた。[12]

これに対してMIDI Manufacturers Association(MMA)は、2018年8月14日に推奨仕様RP-054(Specification for use of TRS Connectors with MIDI Devices)を公開した。RP-054は、DIN MIDI機器との電気的な接続を実現するためのTRSの配線、機器側の回路、ケーブル仕様を定めている。[12][13]

MIDIの5ピンDINコネクタで実際に使用されるのは、4ピン(電流の供給側、Source)、5ピン(電流の吸い込み側、Sink)、2ピン(シールド)の3つである。これらをTRSの3接点へどのように割り当てるかによって、主に次の方式がある。[14]

Type A(RP-054で標準化)
DIN 5(Sink)    →  TRS Tip
DIN 4(Source)  →  TRS Ring
DIN 2(Shield)  →  TRS Sleeve

Type B
DIN 4(Source)  →  TRS Tip
DIN 5(Sink)    →  TRS Ring
DIN 2(Shield)  →  TRS Sleeve

Type AはKorgやMake Noiseなど、Type BはArturiaやNovationなどが採用している。このほか、TSプラグを使用する方式(Type Cと呼ばれることがある)もある。[14]

Type AとType Bは同じTRSプラグを使用するが、TipとRingの割り当てが逆であるため互換性はない。TRS–DIN変換ケーブルは、接続する機器の方式に合ったものを使用する必要がある。

互換性と注意点

TSプラグとの組み合わせ

TSプラグをTRSジャックに挿入すると、ジャック側のRing接点はTSプラグのスリーブに接触し、グラウンドと接続される。

アンバランスのTSケーブルは、多くの場合バランスのTRS入出力に接続できるが、信号はアンバランスとなり、信号レベルが6 dB低下し、ノイズの影響も受けやすくなる場合がある。接続の可否は機器のメーカーに確認する必要がある。[1]

TSケーブルはステレオ信号を伝送できないため、ステレオのTRS入出力に接続すると一方のチャンネルが失われる。[1]

逆に、ギターやギター用エフェクターなど、TS接続を前提とした機器にTRSケーブルを使用すると問題が生じる場合がある。[1]

バランス機器とアンバランス機器の接続

バランス機器とアンバランス機器は、本来は互換性のある接続方式ではない。両者を接続するための配線方法は複数あり、適切な方法は出力回路と入力回路の方式によって異なる。[15]

例えば、TRS–TS変換ケーブルには、TS側でRingをSleeveへ接続する配線や、Ringを接続しない配線などがある。どの配線を選ぶかは、接続する機器の仕様とメーカーの推奨を確認したうえで判断する必要がある。[15]

TRRSとの混用

TRRSは4つの接点を持ち、主に3.5 mmサイズで、マイク付きヘッドセットや携帯電話などに使用される。[1]

TRRSプラグを持つヘッドセットは、変換アダプタを使用しても、TRSのヘッドフォン出力に直接接続すると正しく動作しない場合がある。[1]

ケーブルを製作・選定するときの確認事項

TRSケーブルを製作または選定するときには、少なくとも次の項目を確認する必要がある。

  • 接続する端子が、バランス・モノラル、アンバランス・ステレオ、インサート、コントロール用など、どの用途で設計されているか
  • Tip、Ring、Sleeveのそれぞれに割り当てられている信号
  • 両端のコネクタの種類(TRS、TS、XLR、TTなど)とサイズ
  • インサートの場合、Send/Returnの割り当てと、分岐後の各プラグの表示
  • エクスプレッションペダルの場合、ワイパーがTip側かRing側か
  • TRS MIDIの場合、Type AかType Bか
  • バランス機器とアンバランス機器を接続する場合、出力回路の方式とメーカー推奨の配線
  • 両端のピンアサインが異なる変換ケーブルの場合、方向を示す表示

バランス用のTRSケーブルには、一般に2芯シールドケーブルが用いられる。4芯のスターカッドケーブルを使用した製品もある。[16]

まとめ

TRSとは、フォーンコネクタの接点の構成を表す名称であり、信号の種類や配線を表す名称ではない。

同じTRSコネクタが、バランス・モノラル、アンバランス・ステレオ、インサート、エクスプレッションペダル、MIDIなど、互いに異なる配線規則で使用されている。

したがって、

TRSだからバランスである
TRSだからステレオである
TRSだから接続できる

という判断は適切ではない。

TRSケーブルを使用するときは、コネクタの形状ではなく、接続する両方の機器の端子がどの用途で設計され、Tip、Ring、Sleeveにどの信号が割り当てられているかを確認する必要がある。

脚注

関連項目