Traktor

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Traktor(トラクター)は、ドイツのNative Instruments(ネイティブ・インストゥルメンツ)が開発するDJソフトウェアおよびDJ製品群である。2000年に最初のバージョンが登場して以来、波形表示、MIDIマッピング、4デッキ、Sync、DVS、Loop、エフェクト、Remix Decks、Stem Decksなどを段階的に取り込み、コンピューターを中心としたDJ環境の代表的なプラットフォームの一つとなった。

2026年現在の主力版はTraktor Pro 4で、4デッキ、Stem Separation、Flexible Beatgrids、Pattern Player、iZotope Ozone Maximizer、DVS、Remix Decks、外部ミキサーモードなどを備える。簡略版としてTraktor Playも提供されている。

Traktorは、特定のDJコントローラーだけに閉じたソフトウェアではない。Native Instruments製のTraktor Kontrolシリーズと深く統合する一方、CDJ、外部DJミキサー、汎用MIDIコントローラー、ターンテーブル、Ableton Linkなどを組み合わせた構成にも対応し、ユーザーが演奏環境を組み替えやすいことを特徴とする。

概要

Traktorの基本構造は、複数の仮想デッキ、内部ミキサー、ブラウザー、エフェクト、マスター出力を一つのアプリケーション内へ統合するものである。

現在のTraktor Pro 4では最大4デッキを使用でき、各デッキは用途に応じてTrack Deck、Remix Deck、Stem Deck、Live Inputとして扱える。

一般的な2曲のミックスだけでなく、4デッキへLoopやSampleを配置したレイヤー型のDJプレイ、ターンテーブルを用いたDVS、外部ミキサーと組み合わせたクラブセット、Remix DeckやPattern Playerを用いたライブリミックスなど、複数の運用形態を同一ソフトウェアで構成できる。

歴史

2000年:初代Traktor

Native Instrumentsは2000年に最初のTraktorを公開した。

初期Traktorは、従来のターンテーブルやCDプレーヤーを模倣するだけでなく、コンピューター画面上に波形を表示し、楽曲の先の構造を見ながら操作するDJソフトウェアとして設計された。

また、早い段階からMIDIマッピングを重視し、市販のMIDIコントローラーへユーザーが自由に機能を割り当てられる構造を持った。この自由度は後のTraktorでも維持され、専用ハードウェアと汎用コントローラーの双方を扱える基盤となった。

2003年:Final Scratchとの統合

2003年、TraktorはFinal Scratch系技術と統合され、ターンテーブルからデジタル音源を操作するDigital Vinyl Systemへ本格的に対応した。

この時期のTraktor Final Scratchは、アナログレコードの操作感とコンピューター内の音源ライブラリを結び付ける重要な製品だった。

DVSは後のTraktor Scratch系列へ発展し、Traktor Pro 4でもTimecode Vinylを利用した操作が継続されている。

4デッキとSync

Traktorは比較的早い時期から4デッキ構成を強く推進した。

4デッキを同時に扱う場合、すべてを手動でBeatmatchする負荷は大きい。そこでBeatgrid、BPM解析、Syncを利用し、テンポや拍位置の維持をソフトウェアへ任せ、その分Loop、Effect、Sample、複数曲のレイヤーへ操作を振り向ける設計が発展した。

TraktorにおけるSyncは単なる初心者向け補助ではなく、4デッキやRemix Deckを使った複雑なパフォーマンスを成立させる中核機能として位置づけられてきた。

Traktor Pro

2008年前後には製品名称がTraktor Proへ整理され、プロフェッショナルDJ向けの主力ソフトウェアとして展開された。

ブラウザー、波形、Cue、Loop、Beatgrid、Effect、4デッキ、MIDI Mapping、DVSなど、現在のTraktorに続く主要要素がこの系統で定着した。

Traktor Kontrolとハードウェア統合

2010年代にはNative Instruments自身がDJハードウェアを積極的に展開し、ソフトウェアとコントローラーを一体で設計する方向が強まった。

代表的な製品には、

などがある。

Traktor Kontrolシリーズでは、ソフトウェア側のDeck、Mixer、FX、Browser、Remix Deck等をハードウェア上の物理操作へ対応させ、PC画面へ触れる回数を減らす方向が追求された。

Remix Decks

Traktor Pro 2世代ではRemix Decksが導入された。

Remix Deckは通常の1曲を再生するTrack Deckとは異なり、複数のSampleやLoopをセル状に配置し、個別にトリガーするためのデッキである。

これにより、完成した楽曲同士を混ぜるだけでなく、Drum Loop、Percussion、Vocal、One-shot、FXなどをライブで追加し、DJセットを組み替えることが可能になった。

Traktor Kontrol F1はRemix Deckのセル操作を前提として設計された専用コントローラーである。

Stem Decks

2015年前後にはStem Decksが導入された。

当時のStemsは、あらかじめDrums、Bass、Vocals、Otherなど複数の成分へ分けて書き出した専用Stem Fileを読み込み、各成分のVolume、Filter、Effect Sendを独立操作する方式だった。

後年のAI Stem Separationとは異なり、楽曲側で事前にStem形式を用意する必要があったが、DJソフトウェア上で楽曲を構成要素へ分解して扱う考え方を早い時期から実装した機能だった。

2018年:Traktor Pro 3

2018年、Traktor Pro 3が登場した。

ユーザーインターフェースが再設計され、zplane élastique 3系のタイムストレッチ、Mixer FX、外部ミキサー向けのDirect Thru系機能などが導入された。

同時期のTraktor Kontrol S4 MK3では、モーター駆動ジョグとHaptic Driveが採用され、CueやLoop位置を物理的なフィードバックで把握する方向が試みられた。

2019年:Traktor DJ 2

2019年にはTraktor DJ 2が発表された。

Traktor DJ 2はiPad、Mac、Windowsを対象とし、従来のTraktor Proとは別の新しいコードベースで開発された。SoundCloud Go+、Track Recommendationsなどを備え、より簡潔な操作体系を志向した。

ただし、その後の主力プロフェッショナル製品はTraktor Pro系列で継続している。

2024年:Traktor Pro 4

2024年7月、Native InstrumentsはTraktor Pro 4を発表した。

Pro 4では、従来の4デッキと自由度の高いパフォーマンス構造を維持しながら、現代的なDJソフトウェアに求められる機能が大幅に追加された。

主な追加要素は、

  • iZotope RX技術を利用したStem Separation
  • Flexible Beatgrids
  • Pattern Player
  • iZotope Ozone Maximizer

である。

Pattern PlayerとOzone Maximizerは、それ以前にはTraktor Pro Plusの追加機能として提供されていたが、Pro 4では本体機能として統合された。

Deck

Traktor Pro 4では最大4デッキを使用する。

各デッキは用途に応じて異なる役割へ設定できる。

Track Deck

Track Deckは通常の楽曲ファイルを再生する標準デッキである。

Waveform、Beatgrid、BPM、Key、Cue、Hot Cue、Loop、Beatjump、Sync等を使用する。

Remix Deck

Remix DeckはSampleやLoopを複数セルへ配置するデッキである。

単発効果音だけでなく、数小節のDrum LoopやPercussionを曲へ重ねる用途にも適する。

各Sample SlotはVolume、Filter、FX等を個別に扱える。

Stem Deck

Stem Deckは楽曲を複数成分へ分解して操作する。

Traktor Pro 4では内蔵Stem Separationによってローカル楽曲を、

  • Drums
  • Bass
  • Vocals
  • Other / Instruments

へ分離できる。

各StemはVolume、Filter、Effect Amountを独立して操作可能で、Acapella化、Instrumental化、Bass交換、DrumだけのTransitionなどへ利用できる。

Live Input

Live Inputは外部オーディオ信号をTraktor内部へ入力するデッキである。

マイク、外部シンセサイザー、Drum Machine、別プレーヤーなどを内部Mixer/Effect経由で扱う場合に使用する。

Beatgrid

BeatgridはTraktorの時間基準である。

Loop、Beatjump、Sync、Beat FX、Pattern PlayerなどはBeatgridを基準として動作する。

従来型のBeatgridは一定BPMを前提としやすく、生演奏や古いDisco、Funk、Rockなどテンポが揺れる楽曲では手動調整が必要だった。

Traktor Pro 4のFlexible Beatgridsでは、一曲の中に複数のTempo Zoneを設定できる。これにより、テンポが変化する録音でも、各区間に沿ってBeatgridを追従させられる。

これは単純なBPM推定精度の向上ではなく、曲中でテンポが変化すること自体をデータとして保持する仕組みである。

Sync

TraktorではTempo SyncとBeat Syncを使い分けられる。

Tempo Syncは主にBPMを同期し、Beat Phaseの微調整を比較的自由に残す。

Beat Syncはテンポに加えて拍位置もBeatgridへ合わせる。

4デッキ、Remix Deck、Pattern Playerを併用する場合、Syncは各要素を同じ時間軸へ揃えるための基礎となる。

外部同期ではMIDI ClockやAbleton Linkを利用でき、Ableton Live、Drum Machine、他のLink対応アプリ等とテンポを共有できる。

CueとLoop

Traktorでは複数のHot Cue/Hot Loopを楽曲ごとに保存できる。

Cue Pointは単なる再生開始位置だけでなく、Load、Fade In、Fade Out、Grid Markerなど複数の用途を持ってきた。

Pro 4ではBeatgrid MarkerとCue Pointがより明確に分離され、Cueを削除してもBeatgridを保持できるようになった。

LoopはBeatgridを基準に拍単位で設定でき、Loop In/Outを手動指定することも可能である。

Beatjump

Beatjumpは再生を止めずに指定拍数だけ前後へ移動する機能である。

曲構成を短縮したり、同じフレーズへ戻ったりする用途に使える。

Beatgridが正確であるほど、拍位置を崩さずに移動できる。

Effect

Traktor Pro 4は多数のEffectを搭載する。

FX UnitはSingle ModeとGroup Modeを持ち、Deckごとに割り当てられる。

代表的な処理には、

などがある。

Traktor Pro 4では43種類のEffectと複数のFX Unitを利用できる。

Mixer FX

Mixer FXは各Mixer ChannelのFilter位置へ割り当てて使う1ノブ型のEffectである。

通常のFX Unitより素早く操作でき、Transition中のFilter、Reverb、Delay系処理などに向く。

Pro 3で導入され、Traktorの内部Mixerを使う際の主要なパフォーマンス機能となった。

Pattern Player

Pattern PlayerはDrum PatternをTraktor内で再生する機能である。

808系などのDrum Kitや、アーティスト/プロデューサー由来のKitを選択し、Kick、Snare、Hi-hat、Percussion等のパターンをDJセットへ重ねられる。

PatternはMaster Tempoへ同期し、Step Editingにも対応する。

楽曲そのものとは別にリズム素材を追加できるため、Breakdownを補強したり、Transition中のGrooveを維持したりする用途に使える。

Ozone Maximizer

Traktor Pro 4にはiZotopeのOzone技術を利用したOzone Maximizerが統合されている。

Master OutputのLoudnessを上げながらPeakやTransientを制御し、Clippingや過度な歪みを抑えるためのMaster Processorである。

DJセットでは年代やMasteringの異なる楽曲を連続再生するため、曲ごとのLoudness差をある程度まとめる用途にも使われる。

ただしMaximizerは適切なGain stagingの代替ではなく、各Channel GainやMaster Levelを過大入力すれば音質劣化を招く。

KeyとKeylock

Traktorは楽曲のKey解析に対応する。

Keylockを有効にすると、Tempoを変更してもPitchを一定に保てる。

Key情報はHarmonic Mixingにも利用され、異なる楽曲間の調性的な相性を選曲の補助情報として扱える。

LibraryとBrowser

Traktorはローカル音源をTrack Collectionへ登録し、Playlist、History、Search等で管理する。

BrowserにはTitle、Artist、Album、Genre、BPM、Key、Rating等のMetadataを表示できる。

Smart Playlistでは条件式によって自動的に楽曲を分類できる。

Preview Deckを使えば、Main DeckへLoadせずにHeadphoneで候補曲を試聴できる。

Streaming

Traktor Pro 4はBeatport Streamingへ対応する。

Streaming TrackもBrowserから検索・選択できるが、ローカルファイルとは利用条件やOffline利用の可否が異なる。

Streaming Serviceの対応状況は契約や地域、サービス側の仕様変更によって変化するため、使用前に現行条件を確認する必要がある。

DVS

Traktor Pro 4はDigital Vinyl Systemへ対応する。

Traktor Timecode Vinylをターンテーブルで再生し、その制御信号を対応Audio Interface/DJ Mixerへ入力することで、デジタル楽曲をレコードのように操作できる。

Scratch、Backspin、Pitch Bend、Needle Drop等を物理ターンテーブルから行える。

DVSはTraktorの歴史において古くから重要な機能であり、Final Scratch時代から現在まで継続している。

内部MixerとExternal Mixer Mode

Traktorは内部Mixerを使用するInternal Mixingと、外部DJ Mixerへ各Deckを個別出力するExternal Mixingの双方に対応する。

Internal MixingではTraktor内のEQ、Filter、Channel Fader、Crossfader、Mixer FX等を使用する。

External Mixingでは、各DeckをAudio Interfaceの独立Outputへ送り、DJミキサー側でEQ、Cue、Fader、Effect等を操作する。

クラブのCDJ+DJM環境へPCを組み込む場合や、アナログMixerを使いたい場合にExternal Mixingが適する。

EQとFilter

Traktor Pro 4は複数のEQモデルとFilterモデルを備える。

DJ MixerごとにEQ CurveやCut量は異なるため、Traktorでは異なるMixer Characterへ近い応答を選択できる。

内部MixerのFilterも複数モデルから選択可能。

AudioとLatency

DJソフトウェアではレイテンシーが演奏性へ直接影響する。

特にScratch、Cue、Hot Cue、Loop、Jog、DVSでは、操作と出音の時間差が大きいと演奏感が悪化する。

実効レイテンシーは、

などに左右される。

Bufferを小さくすれば応答は速くなるが、CPU負荷が増え、Audio DropoutやClick/Popが発生しやすくなる。

Recording

Traktor Pro 4はMix Recorderを備える。

内部Mixerを使用したDJ Mixや、設定に応じたExternal InputをAudio Fileとして録音できる。

History Playlistと組み合わせれば、録音したMixと実際に使用したTrackの記録を残しやすい。

MIDI Mapping

TraktorはMIDI Mappingの自由度が高いことで知られる。

汎用MIDI ControllerのButton、Knob、FaderへTraktorのCommandを割り当てられ、Modifierを利用して一つの操作子へ複数機能を持たせることもできる。

Native Instruments純正ハードウェアには専用Integrationが用意されるが、Third-party ControllerでもMapping Fileを読み込んだり、ユーザーが独自Mappingを作成したりできる。

HIDとCDJ

Traktor Pro 4は一部CDJのHID制御へ対応する。

USB経由でCDJを接続し、Jog、Transport、Browser、Display等をTraktor Deckと連携させる。

これにより、クラブ常設CDJをTraktorの物理操作面として利用できる。

Traktor Kontrol S4 MK3

Traktor Kontrol S4 MK3はTraktor Pro 3世代を代表する4チャンネルコントローラーである。

モーター駆動JogとHaptic Driveを搭載し、Jog Plateの回転と振動フィードバックによってCue/Loop位置などを触覚的に伝える。

通常の静止Jogとは異なり、ターンテーブル的な回転挙動とデジタル情報を組み合わせた設計である。

Traktor Play

Traktor PlayはTraktor Pro 4を基礎とした簡略版である。

2デッキ、Hot Cue/Hot Loop、Beatport Streaming、基本Effect、Pattern Player等を備え、Traktor Pro 4より機能を絞った構成になっている。

Pro 4では4デッキ、Stem Separation、DVS、Remix Deck、Flexible Beatgrids、外部同期、より多くのEffect、詳細Mapping等が利用できる。

Traktorと他のDJソフトウェア

Traktor、Serato DJ、rekordbox、djayはいずれもDeck、Waveform、Cue、Loop、Sync、Effect、Controller Integration等を備えるが、設計思想には差がある。

Traktorは特に、

  • 4デッキ運用
  • Remix Deck
  • 自由度の高いMIDI Mapping
  • Internal/External Mixingの柔軟性
  • DVS
  • Native Instruments製モジュラーコントローラー
  • Ableton Link/MIDI Clockを利用したHybrid Set

との親和性が高い。

rekordboxがPioneer DJ/AlphaThetaのCDJ・USB Export環境との連続性を強く持ち、SeratoがDVSと幅広いHardware Unlock機器を中心に発展したのに対し、Traktorはユーザー自身がシステム構成を組み立てる余地を比較的大きく残してきた。

現在の位置づけ

2026年現在、TraktorはNative Instrumentsの現行DJプラットフォームとして継続している。

主力ソフトウェアはTraktor Pro 4で、Native Instruments公式の2026年7月時点の更新情報では4.5.1が現行版とされている。

初期Traktorから続くWaveform、4デッキ、MIDI Mapping、DVS、Sync、Effectといった基礎に、Stem Separation、Flexible Beatgrids、Pattern Player、Ozone Maximizerが加わり、クラシックなTraktorの構造を維持しながら現代的なDJ機能へ更新された形になっている。

関連項目

参考資料