DigiTech Studio S-100
DigiTech Studio S-100(デジテック・スタジオ S-100)は、DigiTechが1990年代後半に展開した1Uラックマウント型のデュアルエンジン・デジタルマルチエフェクト・プロセッサーである。リバーブ、ディレイ、モジュレーション、ピッチシフト、コンプレッサー、リングモジュレーター、ボコーダー等を内蔵し、ライブPA、スタジオ、楽器処理のいずれにも使用できる構成を持つ。
S-100はDigiTechのスタジオ/プロオーディオ向け製品群DigiTech Studioに属し、2系統のオーディオ入力と2系統の出力、5種類のエフェクト・ルーティング、99ユーザー/99ファクトリー・プログラム、MIDI Program Change、外部フットスイッチ制御などを備える。
概要
S-100は、単一の大型エフェクト処理と、2基のエフェクト・エンジンを組み合わせた複合処理の双方に対応する。
取扱説明書はDual Engine Multi-Effects Processorと呼び、5種類のEffect ConfigurationによってDSP資源の割り当てと信号経路を変更できるとしている。
構成1(C1)では2基の処理エンジンを統合して単一の大型エフェクト・モジュールとして使用する。このモードでは、より長いディレイ時間や、より高密度なリバーブ処理にDSP資源を集中できる。
構成2〜5(C2〜C5)では、処理能力を2つのハーフサイズ・モジュールへ分割し、2種類のエフェクトを直列、並列、左右独立など異なる経路で組み合わせる。
このためS-100は、単純な「リバーブ専用機」ではなく、用途に応じて一つの高品質エフェクトへ処理能力を集中させることも、複数エフェクトを同時に動作させることもできる。
発売時期とDigiTech Studio
S-100の取扱説明書には1997年Copyright、1998年4月印刷の表記があり、1997〜1998年頃の製品である。
当時DigiTechはHARMAN Music Group傘下にあり、S-100のマニュアルにも「Digitech Studio」および「Harman Music Group Incorporated」の表記がある。
DigiTech Studioはギター専用のフロア型マルチエフェクトとは異なり、スタジオやPAでのラインレベル処理を想定したラック製品群で、Studio Quad、Studio 200、Studio Vocalist等が展開された。
エフェクト・カテゴリ
S-100のエフェクトは大きく次のカテゴリに分けられる。
- モジュレーション
- ピッチシフト/デチューン
- ディレイ
- リバーブ
- Other Effects
モジュレーション系にはコーラス、フランジャー、フェイザー、トレモロ、パンナー、ロータリースピーカー系処理などが含まれる。
Other Effectsにはコンプレッサー、リングモジュレーター、ボコーダーが含まれる。
工場プリセットにはHall、Plate、Room、Arena、Cathedral、Gated Reverb、Reverse Reverb、Ping-Pong Delay、Chorus + Reverb、Pitch + Delay、Compressor + Reverbなど、多数の単独/複合エフェクトが含まれる。
リバーブ
S-100は複数のアルゴリズミック・リバーブを搭載する。
主なパラメータにはPredelay、Decay、Damping、Size / Stage、Level等があり、Hall、Room、Plate、Arena、Cathedral、Gated、Reverseなど異なる残響特性を作ることができる。
C1のフルサイズ処理では2エンジン分のDSP資源を一つのアルゴリズムへ割り当てるため、マニュアルはより高密度なリバーブ・ディケイが得られるとしている。
一方、C2〜C5ではリバーブとディレイ、コーラス、ピッチシフト等を同時使用できるため、PAのボーカル処理や楽器用マルチエフェクトとして柔軟に運用できる。
ディレイ
ディレイ・アルゴリズムには複数のタイプがあり、使用するエフェクト・モジュールのサイズによって最大ディレイ時間が変わる。
取扱説明書では一部アルゴリズムについて、Half-size時に最大700〜1000 ms、Whole-size時に最大1000〜2000 msのディレイ時間が示されている。
この仕様は、DSP資源を2つのエフェクトへ分配するか、一つの処理へ集中させるかというS-100の設計思想を反映している。
ピッチシフトとデチューン
S-100はデジタルピッチシフトとデチューンを搭載する。
Pitch Shiftは原音に対して音程を変化させた信号を生成し、オクターブ、完全4度、完全5度などのハーモニー用途に利用できる。
Detuneはより小さい音程差を付加し、コーラスに似た厚みや広がりを作る用途に使われる。
3バンドEQとノイズゲート
S-100は各プログラムに対し、エフェクト処理とは別に3バンドEQとノイズゲートを設定できる。
EQは次の4パラメータで構成される。
| パラメータ | 内容 |
|---|---|
| Lo EQ | -12〜+12 dB |
| Parametric Frequency | 1〜26の内部ステップ |
| Parametric Level | -12〜+12 dB |
| Hi EQ | -12〜+12 dB |
ノイズゲートはThresholdとReleaseを設定でき、ギター、マイク、外部ライン機器など入力ソースに応じて無信号時のノイズを抑えることができる。
Dry Path Global Mix
S-100にはDry Path Global MixのOn / Off設定がある。
Dry Onでは原音とエフェクト音を本体内部で混合できるため、ギターやサックス等をS-100へ直接入力して使用する場合に適する。
Dry Offでは原音経路を切り、100% wetのエフェクト信号を出力する。これはミキシングコンソールのAUX send / returnへ接続する場合に重要である。
典型的なPA接続は次のようになる。
ミキサー AUX SEND → S-100 INPUT → S-100 OUTPUT L/R → ミキサーのStereo Returnまたは空きLINE入力
この構成では、S-100を100% wetにして、原音とエフェクト音の比率をミキサー側のAUX send量とreturnレベルで調整する。
S-100のマニュアル自身も、Dry Path Offを「mixing consoles' effects sends」で使用する設定として説明している。
オーディオ入力
入力は1/4インチ・フォーン端子2系統で、LEFT/MONOとRIGHTを備える。
LEFT/MONOのみを使用した場合、入力信号は内部で左右両方の処理系へ送られる。LEFTとRIGHTを同時使用するとステレオ入力を保持できる。
仕様上、入力はunbalancedで、最大入力レベルは+18 dBu。
リアパネルにはInput Levelノブがあり、フロントパネルの入力レベル表示を見ながら入力ゲインを調整する。
オーディオ出力
出力は1/4インチ・フォーン端子2系統で、LEFT/MONOとRIGHTを備える。
LEFT/MONOのみを使用すればモノラル出力として使用でき、左右両方を使用すればステレオ・リバーブ、パン、Ping-Pong Delay等のステレオ効果を維持できる。
仕様上、出力はimpedance balancedで、最大出力レベルは+18 dBu。
これは入力がアンバランスであるのに対し、出力側ではインピーダンス・バランス方式を採用する構成である。
MIDI
リアパネルにMIDI INを備える。
受信MIDIチャンネルは1〜16、All、Offから選択でき、Program Changeでプリセットを切り替えられる。
マニュアルでは次の特殊Program Changeも定義されている。
| Program Change | 動作 |
|---|---|
| 1〜99 | プログラム選択 |
| 100 | Effects Bypass |
| 101 | Effects Bypass解除 |
| 102 | Effects Bypass Toggle |
| 103 | User Program Bank選択 |
| 104 | Factory Program Bank選択 |
またMIDI CC 7によってDry LevelのOn / Off制御を受信できる。
このため、シーケンサー、MIDIフットコントローラー、キーボード等からS-100のプリセットを切り替えることが可能である。
フットスイッチ
リアパネルには専用FOOTSWITCH端子を備え、オプションのDigiTech FS-300を接続できる。
FS-300からプログラム変更とエフェクト・バイパスを操作できるため、ギター/楽器用ラックとして使用する場合は演奏位置から足元でS-100を制御できる。
プリセットとユーザーメモリー
S-100は99 Factory Programsと99 User Programsを備える。
工場プリセットはリバーブ、ディレイ、モジュレーション、ピッチ、複合エフェクト、左右分離処理等の設定例を提供する。
編集した設定は1〜99のUser Programへ保存できる。プログラム変更はフロントのProgram/Dataホイール、MIDI、FS-300から行える。
デジタル処理仕様
主なデジタル仕様は次の通り。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| サンプリング周波数 | 46.875 kHz |
| A/D変換 | 20-bit、128× oversampling |
| D/A変換 | 20-bit、128× oversampling |
| External signal path width | 24-bit |
| Internal signal path width | 24-bit |
| Multiplier size | 24 × 24-bit |
| 周波数特性 | 20 Hz–20 kHz、±0.5 dB |
| S/N比 | 96 dB(A-weighted) |
| THD | 0.008%未満 |
46.875 kHzというサンプリング周波数は、44.1 kHzや48 kHzとは異なる独自の内部動作周波数である。
S-100はデジタル・オーディオ入出力を備えないため、この内部サンプリング周波数へ外部デジタル機器を同期させる必要はない。すべての音声入出力はアナログで行われる。
入出力・電源仕様
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| オーディオ入力 | 2 × 1/4インチ、unbalanced |
| 最大入力レベル | +18 dBu |
| オーディオ出力 | 2 × 1/4インチ、impedance balanced |
| 最大出力レベル | +18 dBu |
| MIDI | MIDI IN |
| フットスイッチ | FS-300対応端子 |
| 電源 | 外部PS 750電源 |
| 消費電力 | 5 W |
| 質量 | 約1.91 kg |
PAでの使用
S-100はスタジオ機器としてだけでなく、ライブPAのAUXエフェクトとして扱いやすい。
アナログミキサーでの代表的な構成は、
AUX SEND → S-100 → Stereo Return
である。
例えばSoundcraft EPMのように内蔵デジタルエフェクトを持たないミキサーでは、AUXをS-100へ送り、S-100の左右出力をステレオ入力へ戻すことで、リバーブやディレイを複数チャンネルで共有できる。
この用途ではDry PathをOffに設定するのが基本となる。
スタジオでの使用
スタジオでは、ミキサー/パッチベイの外部エフェクトsend、オーディオインターフェースのライン出力/入力、またはインサート経路を介してS-100を使用できる。
ただしS-100にはS/PDIF、AES/EBU、ADAT等のデジタル・オーディオI/Oがない。このためDAWから使用する場合は原則としてA/D・D/A変換を伴うアナログ・ハードウェアインサートとなる。
現代のプラグイン・エフェクトと比較すると編集自由度やDAW統合性は限定される一方、独立した1Uハードウェアとして常時AUXへ割り当て、フロントパネルから素早くプリセットを切り替えられる点はライブ/スタジオ双方で実用的である。
同時代の位置づけ
1990年代後半には、Lexicon、Alesis、Yamaha、TC Electronic、DigiTech等から多数の1Uデジタル・マルチエフェクトが販売されていた。
S-100は高価格な専用リバーブ・プロセッサーよりも、多種類のエフェクトと柔軟なデュアルエンジン・ルーティングを比較的コンパクトな1Uへまとめる方向の製品である。
Sound On Soundの1998年レビューも、S-100を低価格ながら広範なエフェクトと5種類のルーティングを持つ汎用マルチエフェクトとして評価している。
関連項目
- DigiTech
- DigiTech Studio
- マルチエフェクター
- リバーブ
- ディレイ
- ピッチシフター
- コーラス
- コンプレッサー
- ボコーダー
- リングモジュレーター
- MIDI
- Soundcraft EPM
- AUX
- エフェクトセンド