サイン波
サイン波(sine wave、正弦波)は、時間に対して正弦関数または余弦関数として変化する周期波形である。理想的なサイン波は単一の周波数成分だけを持ち、倍音を含まない。シンセシス、オシレーター、フーリエ解析、音響測定、変調などで基本となる波形の一つである。
シンセサイザーでは、サイン波は減算合成の素材としては倍音が少ない一方、FM合成、加算合成、リングモジュレーション、低周波変調などでは非常に重要な役割を持つ。
数学的表現
振幅A、周波数f、初期位相φを持つサイン波は、代表的に
x(t) = A sin(2πft + φ)
と表せる。
ここで、
- A は振幅
- f は周波数
- t は時間
- φ は初期位相
である。
周期Tと周波数fの関係は、
T = 1 / f
である。
たとえば440 Hzのサイン波は1秒間に440周期を繰り返す。
時間領域での形状
サイン波は連続かつ滑らかに正負の最大値の間を往復する。
矩形波やノコギリ波のような不連続点を持たず、傾きも連続して変化する。時間領域では最も単純な周期波形の一つである。
同じサイン波でも、振幅、周波数、位相が異なれば波形の位置や速さは変化するが、基本形状は変わらない。
周波数領域
理想的なサイン波のスペクトルは、基本周波数に対応する単一成分だけからなる。
たとえば440 Hzの理想サイン波なら、周波数スペクトルには440 Hzの成分だけが現れる。880 Hz、1320 Hzなどの整数倍成分は含まれない。
この性質のため、サイン波は倍音構造を調べる際の基準になる。
Cycling '74のMSPドキュメントも、サイン波は単一周波数のみを生成するため、フィルターで基本周波数より上を削っても波形への影響がほとんどないことを例示している。[1]
音色
理想サイン波は倍音を持たないため、一般に非常に単純で純粋な音色として知覚される。
単独では鋭さや明るさが少なく、低域ではサブベースやテストトーンとして使いやすい。
一方、非線形処理を加えると新たな倍音が生成される。たとえば、
などによって、単一周波数だったサイン波から複雑なスペクトルを作ることができる。
シンセサイザーでの利用
オシレーター波形
多くのシンセサイザーは基本波形としてサイン波を持つ。
Ableton LiveのOperatorでは、sine、square、sawtooth、triangle、noiseなどの基本波形が用意され、サイン波は純粋な数学的サイン波として説明されている。[2]
サイン波は単独音源としても使えるが、他の波形を変調するためのモジュレーターとしても頻繁に利用される。
FM synthesis
FM合成では、サイン波同士の周波数変調から非常に複雑な倍音構造を生成できる。
キャリアとモジュレーターがともにサイン波でも、変調指数と周波数比によって多数の側帯波が生じる。
そのため、サイン波は倍音の少ない波形でありながら、FM合成では非常に広い音色範囲を作る基礎波形となる。
Additive synthesis
加算合成では、複数のサイン波を異なる周波数・振幅・位相で加算して複雑な波形を構成する。
フーリエ解析の観点では、周期的な波形を多数のサイン波成分へ分解できるため、サイン波は複雑な音色の最小構成要素として扱える。
LFO
サイン波はLFOの波形としても広く使われる。
LFOにサイン波を使うと、変調先のパラメーターが連続的かつ滑らかに上下する。
代表例は、
- ビブラート
- トレモロ
- フィルターカットオフの周期変調
- パンニング
- ピッチドリフト
などである。
Native InstrumentsもLFOの代表波形としてsine、square、sawなどを挙げ、サイン波は滑らかな往復変化を作る波形として説明している。[3]
フィルターとの関係
理想サイン波は単一周波数しか持たないため、ローパスフィルターのカットオフがその周波数より十分高ければ、基本的に波形形状は変化しない。
カットオフを基本周波数付近まで下げると振幅が低下し、さらに下げれば大きく減衰する。
矩形波やノコギリ波ではフィルターが高次倍音を順に削るため波形自体が丸くなるが、サイン波では削るべき高次倍音がそもそも存在しない。
位相
同じ周波数・振幅のサイン波でも、位相φが異なると時間軸上の位置が変わる。
単独の定常サイン波では位相差が音色として明確に知覚されないことも多いが、複数波形を加算する場合には結果へ直接影響する。
同周波数・同振幅のサイン波を、
- 同位相で加算すると振幅は増える
- 180°逆位相で加算すると理想的には相殺される
- 中間の位相差では部分的に加算・相殺される
という関係になる。
この性質は位相キャンセル、マイク収音、スピーカー配置、加算合成などで重要である。
実際のアナログ回路
理想的なサイン波は数学的概念だが、アナログシンセサイザーでは回路によって近似的に生成する。
代表的な方法には、
- 正弦発振回路
- 三角波からの波形整形
- フィルターで高次倍音を除去
- 非線形ダイオード回路によるシェーピング
などがある。
実機では完全な単一周波数にならず、わずかな高調波歪みやDCオフセット、振幅差などを含むことがある。
この差は回路設計や校正状態によって異なる。
デジタル生成
デジタルシンセサイザーでは、サイン波は比較的生成しやすい。
代表的な方法には、
- 数学関数による直接計算
- ルックアップテーブル
- wavetable
- 再帰型オシレーター
などがある。
サイン波そのものにはナイキスト周波数を超える高調波がないため、矩形波やノコギリ波ほど帯域制限処理を必要としない。
ただし、FMや非線形処理によって新しい高周波成分を生成すれば、エイリアシングが発生し得る。
測定信号としての利用
サイン波はオーディオ測定でも基本的な信号である。
代表用途は、
- 周波数特性測定
- THD測定
- ゲイン測定
- 位相測定
- スピーカー/アンプ試験
- 信号経路の確認
など。
既知周波数のサイン波を入力し、出力側の振幅や歪み成分を観測することで機器特性を調べられる。
複数周波数を順次掃引するサインスイープも広く使われる。
サイン波と純音
音響学では、理想的なサイン波は単一周波数のみからなる純音に対応する。
ただし、実際にスピーカーから再生して空間で収音すると、スピーカーの非線形性、室内反射、環境ノイズなどが加わるため、収音信号が数学的に完全なサイン波になるわけではない。
他の基本波形との比較
| 波形 | 理想的な倍音構成 | 特徴 |
|---|---|---|
| サイン波 | 基本周波数のみ | 最も単純 |
| 矩形波 | 主に奇数次倍音 | 中空で明瞭な音色 |
| ノコギリ波 | 整数次倍音全体 | 明るく密度の高い音色 |
| 三角波 | 奇数次倍音、急速に減衰 | 矩形波より柔らかい |