パワーアンプ

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パワーアンプ(英: power amplifier)は、音声信号をスピーカーを駆動できる電力まで増幅する音響機器である。PAシステムでは、ミキサー、DSP、クロスオーバーなどから受け取った信号を増幅し、パッシブスピーカーへ出力する役割を持つ。[1]

典型的なPAシステムでは、次のような位置に置かれる。

Microphone / Instrument
          ↓
        Mixer
          ↓
   DSP / Crossover
          ↓
     Power Amplifier
          ↓
   Passive Speaker

パワーアンプは単体の機器として使用されるほか、パワードスピーカーやパワードミキサーの内部にも組み込まれている。[1]

基本的な役割

マイク、電子楽器、オーディオインターフェース、ミキサーなどで扱われる音声信号は、通常そのまま大型のパッシブスピーカーを駆動するだけの電力を持たない。

パワーアンプは入力された音声信号に対応して出力電圧と電流を供給し、スピーカーのボイスコイルを駆動する。

概念的には次のように表せる。

音声信号
   ↓
Power Amplifier
   ↓
大きな電力を持つ音声信号
   ↓
Loudspeaker

パワーアンプは音響システムの最終増幅段として使用されることが多い。

プリアンプとの関係

音響機器では、信号の増幅を複数の段階に分けて行う。

プリアンプは、マイクや楽器などの比較的小さな信号を後段の機器で扱いやすいレベルへ増幅したり、ゲイン調整や信号処理を行ったりする。

パワーアンプは信号経路の後段に置かれ、スピーカーを駆動するための電力を供給する。

Microphone
   ↓
Preamp
   ↓
Mixer / Processor
   ↓
Power Amplifier
   ↓
Speaker

実際の機器では、これらの機能が一つの筐体に統合される場合もある。

パッシブスピーカーとの関係

単体のパワーアンプは、主にパッシブスピーカーと組み合わせて使用する。

パッシブスピーカーは内部にパワーアンプを持たず、外部のパワーアンプから供給された電力によってドライバーを駆動する。

Mixer
  ↓
Power Amplifier
  ↓
Passive Speaker

パワードスピーカーは筐体内部にパワーアンプを備えている。

Mixer
  ↓
Powered Speaker
  ├─ DSP / Crossover
  ├─ Power Amplifier
  └─ Speaker Driver

ヤマハは、パワーアンプを内蔵していないスピーカーをパッシブスピーカー、パワーアンプを内蔵したスピーカーをパワードスピーカーとして説明している。[1]

スタジオで使用されるパワードモニタースピーカーも、この構成の一例である。

出力

パワーアンプの出力能力は一般にワット(W)で示される。

例えば、

300 W × 2 @ 8 Ω
500 W × 2 @ 4 Ω

という仕様であれば、8 Ωの負荷では1チャンネルあたり300 W、4 Ωの負荷では1チャンネルあたり500 Wを供給できることを示す。

パワーアンプの出力値は、接続されるスピーカーのインピーダンスによって変化する。多くのアンプでは、一定の範囲内で負荷インピーダンスが低くなるほど供給可能な出力が増加する。[1]

実際の定格出力には、

  • 負荷インピーダンス
  • 測定周波数
  • 歪率
  • 測定時間
  • 同時に駆動するチャンネル数

などの測定条件が付記されることがある。

そのため、異なるパワーアンプのワット数を比較するときには測定条件も確認する。

インピーダンス

パワーアンプには、正常に駆動できる最低負荷インピーダンスが定められている。

PA用スピーカーでは4 Ω、8 Ωなどの公称インピーダンスが一般的に使用される。

同じインピーダンスを持つ2台のスピーカーを並列接続すると、合成インピーダンスは半分になる。

例えば、

8 Ω + 8 Ω
Parallel Connection
       ↓
      4 Ω

となる。

8 Ωのスピーカーを2台並列に接続した場合、パワーアンプから見た負荷は4 Ωとなる。[1]

スピーカーを追加して負荷インピーダンスが低下すると、パワーアンプに要求される電流も増える。

アンプが対応する最低インピーダンスより低い負荷を接続すると、保護回路の作動、過熱、動作停止、故障などにつながる可能性がある。Crownも、アンプのシリーズや動作モードごとに使用可能なスピーカー負荷を示している。[2]

スピーカーとの出力の組み合わせ

パワーアンプを選定するときには、スピーカー側の仕様も確認する。

主な項目は、

  • 公称インピーダンス
  • 連続許容入力
  • PGM許容入力
  • Peak許容入力
  • スピーカー感度

などである。

スピーカーの許容入力には複数の表記方法があり、メーカーや規格によって基準が異なる。

例えばヤマハのPAビギナーズガイドでは、同社製パッシブスピーカーを組み合わせる際の目安として、スピーカーのPGM入力値に対して約0.8~1.25倍のアンプ出力を紹介している。[1]

CrownはContinuous Power Ratingを基準にし、リミッターの使用や必要なヘッドルームを考慮した別の選定方法を紹介している。[3]

実際のシステム設計では、使用するメーカーが定義する許容入力、音声信号のピーク、リミッター設定、必要な音圧などを合わせて検討する。

アンプのワット数だけで実際の音量が決まるわけではなく、スピーカーの感度や使用環境も音圧に影響する。[4]

動作モード

2チャンネル以上のパワーアンプでは、複数の動作モードを備える製品がある。

Stereo

各アンプチャンネルを独立して使用する基本的なモード。

Input 1 → Amplifier CH1 → Speaker 1
Input 2 → Amplifier CH2 → Speaker 2

左右のステレオPAや、独立した2系統のスピーカーを駆動するときに使用される。

Parallel

1つの入力信号を複数のアンプチャンネルへ送り、それぞれのチャンネルから独立して出力するモード。

             ┌→ CH1 → Speaker 1
Input ───────┤
             └→ CH2 → Speaker 2

モノラル信号を複数のスピーカー系統へ供給する場合などに使用される。

Bridge-Mono

2つのアンプチャンネルを組み合わせ、1つのスピーカー負荷を駆動するモード。

Amplifier CH1 ──┐
                ├── Speaker
Amplifier CH2 ──┘

2つのチャンネルを利用して、1系統へより大きな出力電圧を供給できる。

詳細はブリッジモノモードを参照。

ブリッジ接続では通常のStereo接続と使用する出力端子や負荷条件が異なる場合がある。ヤマハおよびCrownの資料でも、StereoとBridge動作では出力値と対応負荷が個別に規定されている。[1][5]

ゲインと入力感度

パワーアンプには、入力された信号をどの程度の電圧比で増幅するかを示す電圧利得(Voltage Gain)がある。

また、定格出力を得るために必要な入力信号レベルを入力感度(Input Sensitivity)という。

業務用パワーアンプでは、

26 dB
32 dB

などの固定ゲイン設定や、

+4 dBu
+14 dBu

などを基準にした入力感度設定を選択できる製品もある。

例えばヤマハPC-D / DIシリーズでは、複数の電圧利得および入力感度設定が用意されている。[6]

この設定は、ミキサー、DSP、複数台のパワーアンプなどを組み合わせる際のゲインストラクチャーに関係する。

増幅方式

パワーアンプの出力回路には複数の増幅方式が存在する。

代表的なものには、

  • Class A
  • Class B
  • Class AB
  • Class D
  • Class G
  • Class H

などがある。

Class ABは長くオーディオ用パワーアンプで広く使用されてきた方式である。

Class Dは出力素子を高速にスイッチングさせることで高い電力効率を得る方式で、現代のPA用パワーアンプやパワードスピーカーで広く使用されている。高効率化によって発熱、重量、電源消費を抑えやすいという特徴を持つ。[7]

ヤマハのPC-D / DIシリーズなど、現行の業務用パワーアンプにもClass D出力段が採用されている。[8]

詳細はアンプの動作クラスおよびClass Dアンプを参照。

DSPを内蔵したパワーアンプ

現代のPA用パワーアンプには、DSPを内蔵する製品も多い。

DSPによって、

などをパワーアンプ内部で行うことができる。

ヤマハも、近年の単体PAパワーアンプではDSPを内蔵した製品が一般的になっているとしている。[1]

このタイプでは、

Mixer
  ↓
Power Amplifier
  ├─ DSP
  ├─ Limiter
  ├─ Crossover
  └─ Power Stage
       ↓
     Speaker

のように、従来は外部機器で行われていた処理の一部をアンプ内部で実行できる。

入出力端子

業務用パワーアンプの入力には、

  • XLR
  • TRSフォーン
  • Euroblock / Phoenix
  • RCA

などが使用される。

用途や機種によって端子構成は異なる。

スピーカー出力には、

  • speakON
  • バインディングポスト
  • スクリューターミナル
  • スピーカー用フォーン端子

などが使用される。

PA用途では、ロック機構を持ち、大電流を扱えるspeakONが広く使用されている。ヤマハもプロ用パワーアンプとスピーカーを接続する端子としてspeakONを紹介している。[1]

スピーカーケーブル

パワーアンプとパッシブスピーカーの間にはスピーカーケーブルを使用する。

スピーカーケーブルは、パワーアンプから供給される比較的大きな電流を伝送するため、用途に適した導体断面積を持つケーブルが使用される。

Mixer
   │
   │ XLR / TRSなど
   │ Line-level cable
   ↓
Power Amplifier
   │
   │ Speaker cable
   ↓
Passive Speaker

マイクケーブルや一般的なラインケーブルは、パワーアンプとパッシブスピーカーを接続するスピーカーケーブルとして設計されていない。

ヤマハは、マイク/楽器用ケーブルをスピーカー接続に使用すると発熱する可能性があるとして、スピーカー専用ケーブルの使用を案内している。[1]

ハイインピーダンス出力

設備音響用のパワーアンプには、一般的な4 Ωや8 Ωのローインピーダンス出力に加えて、

  • 70 V
  • 100 V

などのハイインピーダンススピーカーシステムに対応する製品がある。

ハイインピーダンス方式は、多数のスピーカーを長距離配線する商業施設、学校、公共施設などの設備音響で使用される。

例えばヤマハPC-DIシリーズには70 Vおよび100 Vモードを備えたモデルが存在する。[9]

保護機能

パワーアンプは大きな電力を扱うため、多くの製品に保護機能が搭載されている。

代表的なものには、

  • 過熱保護
  • 過電流保護
  • 出力短絡保護
  • DC保護
  • クリップリミッター
  • スピーカー保護用リミッター

などがある。

機種によって保護方式や動作条件は異なる。

選定時に確認する主な仕様

パワーアンプを選定するときには、主に次の項目を確認する。

  • チャンネル数
  • 負荷インピーダンスごとの定格出力
  • 最低負荷インピーダンス
  • Bridge-Mono対応
  • 入力感度
  • 電圧利得
  • 入力端子
  • スピーカー出力端子
  • DSP機能
  • リミッター機能
  • 周波数特性
  • S/N比
  • THD+N
  • 冷却方式
  • 消費電力
  • 重量

スピーカーとの組み合わせでは、アンプ側の出力仕様とスピーカー側のインピーダンスおよび許容入力を同時に確認する。

まとめ

パワーアンプは、音響システムの中でスピーカーを駆動するための電力を供給する増幅器である。

PAシステムでは、

Mixer / DSP
     ↓
Power Amplifier
     ↓
Passive Speaker

という信号経路を構成する。

パワーアンプの動作は、接続するスピーカーのインピーダンスと密接に関係しており、同じアンプでも4 Ω、8 Ωなどの負荷によって出力が変化する。

また、Stereo、Parallel、ブリッジモノモードなど複数の動作方式を持つ機種や、DSP、リミッター、クロスオーバーなどを内蔵する機種も存在する。

パワードスピーカーでは、このパワーアンプ機能がスピーカー筐体内部に組み込まれている。

脚注

関連項目