Class Dアンプ

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クラスDアンプ(英: Class-D amplifier、D級アンプ)は、出力素子を高速にスイッチングさせて音声信号を電力増幅するアンプである。高い電力効率を得やすく、パワーアンプ、パワードスピーカー、車載オーディオ、家庭用オーディオ、携帯機器などで広く使用されている。[1][2]

典型的なクラスDアンプでは、音声信号の情報を高周波のパルス列として表現し、そのパルス信号によってMOSFETなどの出力素子をON/OFFさせる。

Audio Input
     ↓
 Modulator
     ↓
Switching Control Signal
     ↓
 Power Output Stage
     ↓
 Output Filter
     ↓
   Speaker

出力素子を主としてONまたはOFFの状態で動作させることで、出力素子内部で熱として失われる電力を抑えられる。これがクラスDアンプの高効率の基礎となる。[2]

基本原理

オーディオ用パワーアンプは、入力された音声信号に対応した電圧と電流を負荷へ供給し、スピーカーを駆動する。

Class A、Class B、Class ABなどのリニアアンプでは、出力トランジスタを連続的な導通状態で制御して出力波形を形成する。

クラスDアンプでは、出力トランジスタを高速なスイッチとして使用する。

ON
OFF
ON
OFF
ON
OFF
...

スイッチングの時間的なパターンに音声信号の情報を持たせ、出力段から得られる高周波のスイッチング波形を最終的に音声帯域の信号として負荷へ供給する。[2]

「D」とDigital

Class Dの「D」はDigitalの略ではない。

Class A、Class B、Class Cに続くアンプの動作クラスとしてClass Dという名称が使用された。YamahaもClass Dの「D」はdigitalを意味しないと説明している。[1]

クラスDアンプはアナログ入力から構成することもできる。

Analog Audio
     ↓
Analog Modulator
     ↓
Class-D Output Stage

一方、デジタルオーディオ信号をDSPなどで処理してClass D出力段を駆動する構成も存在する。

Digital Audio
     ↓
DSP / Modulator
     ↓
Class-D Output Stage

Class Dという分類は、入力信号がデジタルであるかアナログであるかではなく、主として出力段のスイッチング動作に基づく。

PWM

クラスDアンプで広く使用される変調方式の一つがPWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)である。

PWMでは、パルスの幅、すなわちデューティ比を音声信号に応じて変化させる。

例えば、単純化すると、

小さな正方向の信号
→ ON時間がやや長い

大きな正方向の信号
→ ON時間がさらに長い

負方向の信号
→ 反対側の状態に対応する時間が長い

という関係になる。

固定周波数PWMの一例では、入力された音声信号と高周波の三角波を比較してパルス列を生成する。[2]

Audio Signal ─────────┐
                      ↓
                  Comparator
                      ↑
Triangle Wave ────────┘
                      ↓
                     PWM

PWMは代表的な方式であるが、Class Dの変調方式はPWMだけではない。Analog Devicesは、PWMのほか、パルス密度やΣΔ変調に関連する方式など複数のClass D変調方式を解説している。[2]

出力段

クラスDアンプの出力段には、MOSFETなどのパワートランジスタが使用される。

典型的なハーフブリッジ出力段は次のような構成を持つ。

     +V
      |
 High-side MOSFET
      |
      +──── Output
      |
 Low-side MOSFET
      |
     GND

High-side MOSFETとLow-side MOSFETを交互にON/OFFすることによって、出力ノードを電源側とGND側へ高速に切り替える。

出力波形は、高周波の矩形波またはそれに近いスイッチング波形になる。

+V  ┌───┐   ┌─────┐     ┌─
    │   │   │     │     │
0V ─┘   └───┘     └─────┘

このスイッチング波形の時間的な情報が、最終的な音声波形に対応する。

高い電力効率

クラスDアンプの主要な特徴は、高い電力効率を得やすいことである。

パワートランジスタで発生する瞬間的な電力損失は、概念的には、

Power Loss = Voltage × Current

で考えることができる。

出力トランジスタがOFFしているときには、理想的には電流がほとんど流れない。

OFF:
Current ≈ 0

ONしているときには、MOSFETのON抵抗が十分に低ければ、トランジスタ両端の電圧を小さくできる。

ON:
Voltage across MOSFET ≈ small

このため、出力素子が中間的な導通状態で長時間動作するリニアアンプと比較して、出力段の損失を小さくしやすい。Analog DevicesはClass Dアンプについて、90%以上の効率を実現する設計が一般的に可能であることを説明している。[2]

高効率化によって、

  • 発熱の低減
  • ヒートシンクの小型化
  • 筐体の小型化
  • 装置の軽量化
  • 消費電力の低減
  • バッテリー動作時間の延長

などが可能になる。

特に数百Wから数kWを扱うPA用パワーアンプでは、発熱と重量を抑えられることが大きな利点となる。

実際の電力損失

実際のクラスDアンプの効率は100%にはならない。

主な損失には、

  • MOSFETのON抵抗による導通損失
  • ON/OFF切り替え時のスイッチング損失
  • MOSFETのゲート駆動に必要な電力
  • 出力フィルターの損失
  • 制御回路の消費電力
  • 電源回路の損失

などがある。[2]

MOSFETが完全なON状態またはOFF状態へ瞬時に移行することはできないため、切り替え中には電圧と電流が同時に存在する時間が生じる。

OFF
 ↓
Switching transition
 ↓
ON

スイッチング周波数、出力電力、MOSFETの特性、ゲートドライバー、回路レイアウトなどが実際の損失に影響する。

出力フィルター

Class D出力段から得られる信号には、音声成分とともに高周波のスイッチング成分が含まれる。

多くの設計では、LCフィルターによるローパスフィルターを出力段の後に配置する。[2]

Switching Output
       ↓
    LC Filter
       ↓
 Audio-frequency
     Signal
       ↓
    Speaker

Lはインダクター、Cはコンデンサーを表す。

LCローパスフィルターは、高周波のスイッチング成分を減衰させながら、可聴帯域の成分をスピーカーへ供給する。

出力フィルターの特性は、接続されるスピーカーのインピーダンスとも関係する。したがって、フィルター設計と負荷条件の組み合わせはClass Dアンプの周波数特性や安定性に影響する。[2]

フィルターレスClass D

小出力のクラスDアンプには、外付けLC出力フィルターを必要としない設計も存在する。

このような方式では、差動出力の変調方式やスピーカー自身のインダクタンスを利用して、高周波成分やEMIを管理する。[3]

Texas InstrumentsのTPA3137D2は、外付けインダクターを不要とする低EMIのClass Dアンプの一例である。[4]

スマートフォン、ノートPC、小型Bluetoothスピーカーなどでは、部品点数、基板面積、コストを削減できる点が利点となる。

スイッチング周波数

クラスDアンプの出力段は、通常、可聴帯域より十分に高い周波数でスイッチングする。

スイッチング周波数を高くすると、

  • 可聴帯域とスイッチング成分を分離しやすい
  • 出力フィルターを小型化しやすい

といった利点がある。

一方で、

  • スイッチング損失
  • ゲート駆動損失
  • EMI
  • PCBレイアウトへの要求

なども増加する。

実際のスイッチング周波数は、出力電力、効率、歪み、EMI、使用するMOSFET、フィルター設計などを考慮して決定される。

デッドタイム

ハーフブリッジなどのClass D出力段では、High-side MOSFETとLow-side MOSFETが同時にONすると、電源からGNDへ直接大電流が流れる。

 +V
  |
 MOSFET ON
  |
  |
 MOSFET ON
  |
 GND

この状態はshoot-through(貫通電流)と呼ばれる。

shoot-throughを防ぐため、一方のMOSFETをOFFした後、短い時間を置いてからもう一方をONする。

High-side OFF
      ↓
   Dead Time
      ↓
Low-side ON

この時間をデッドタイム(dead time)という。

Analog Devicesは、shoot-throughを避けるためのデッドタイムがパルス幅の誤差を生み、歪みの原因になることを解説している。[2]

デッドタイムが短すぎるとshoot-throughの危険が増え、長すぎると出力波形の時間的誤差が増える。

このため、Class D出力段では安全なスイッチングと低歪みを両立するデッドタイム制御が重要になる。

負帰還

多くのクラスDアンプでは負帰還を使用する。

Input
  ↓
Amplifier ─────────→ Output
  ↑                    |
  └──── Feedback ──────┘

出力信号の一部を入力側へ戻して制御することで、

  • 出力段の非線形性
  • 電源電圧の変動
  • 変調器の誤差
  • スイッチングタイミングの誤差

などの影響を低減できる。[2]

帰還信号を取り出す位置や制御方式は設計によって異なる。

出力フィルターより前から帰還を取る方式のほか、出力フィルター後のスピーカー端子側から帰還を取る方式も存在する。

後者はPost-Filter Feedbackなどと呼ばれ、出力フィルターや負荷の影響を制御ループへ含めることができる。

EMI

クラスDアンプは高速な電圧変化を伴うスイッチング波形を扱うため、EMI(Electromagnetic Interference、電磁干渉)への対策が重要になる。

Fast switching edges
        ↓
High-frequency energy
        ↓
PCB / Cable / Inductor
        ↓
Radiated / Conducted EMI

高周波エネルギーは、

  • PCB配線
  • 電源配線
  • 出力インダクター
  • スピーカーケーブル

などを経由して放射または伝導する可能性がある。

Analog DevicesはClass Dアンプの設計課題としてEMIを挙げ、特に高周波電流が流れるループ面積の低減、出力フィルターやスピーカー配線の配置などを重要な要素としている。[2]

Class Dアンプでは、オーディオ帯域の性能だけでなく、高周波回路としてのレイアウトやEMC設計も重要になる。

Half-Bridge

Class Dの基本的な出力回路の一つがHalf-Bridge(ハーフブリッジ)である。

        +V
         |
       MOSFET
         |
Output ──+
         |
       MOSFET
         |
        GND

2個のスイッチング素子を使用し、出力ノードを電源側とGND側へ交互に接続する。

単電源でHalf-Bridgeを使用する場合、回路方式によってはスピーカー側へ直流成分を印加しないための処理が必要になる。[2]

Full-Bridge / BTL

2組のHalf-Bridgeを使用して負荷の両端を駆動する構成をFull-BridgeまたはBTL(Bridge-Tied Load)という。

Half-Bridge A
      |
      +──── Speaker ────+
                        |
                 Half-Bridge B

2つの出力を逆方向へ動作させることで、スピーカー両端の電圧差を大きくできる。

例えば、

Output A = +10 V
Output B = -10 V

であれば、スピーカー両端の電圧差は、

+10 V - (-10 V) = 20 V

となる。

BTL構成は小型のClass D ICから大出力アンプまで広く使用される。[2]

ブリッジモノモードとの関係

BTLとブリッジモノモードには、負荷の両端を逆方向の出力で駆動するという共通した原理がある。

Class DアンプのBTLでは、一つのアンプチャンネルの出力段そのものをFull-Bridge構成として設計することがある。

One amplifier channel
      ↓
Full-Bridge / BTL output
      ↓
Speaker

PA用2チャンネルパワーアンプのブリッジモノモードでは、通常は独立して使用できる2つのアンプチャンネルを組み合わせて、一つの負荷を駆動する。

Amplifier Channel 1 ──┐
                      ├── Speaker
Amplifier Channel 2 ──┘

両者は「負荷の両端を能動的に駆動する」という考え方を共有するが、アンプシステムの中で適用される階層は異なる。

詳細はブリッジモノモードおよびモノブリッジケーブルを参照。

Class ABとの比較

Class ABとClass Dは、どちらもオーディオ用パワーアンプで広く使用される。

項目 Class AB Class D
出力段の基本動作 リニア動作 スイッチング動作
電力効率 中程度 高くしやすい
発熱 大きくなりやすい 小さくしやすい
大型ヒートシンク 必要になる場合がある 小型化しやすい
高周波スイッチング 原則として使用しない 使用する
出力LCフィルター 通常は使用しない 多くの回路で使用する
EMI対策 比較的単純 重要な設計要素

増幅クラスだけでアンプの音響性能が決まるわけではない。

実際の性能は、

  • 回路トポロジー
  • 変調方式
  • フィードバック方式
  • MOSFET
  • デッドタイム
  • 電源
  • 出力フィルター
  • PCBレイアウト
  • 負荷条件

などの影響を受ける。

Analog Devicesは、適切に設計された閉ループClass Dアンプで高い電源除去性能と低歪みを実現できることを説明している。[2]

スイッチング電源との関係

Class Dとスイッチング電源(SMPS)は、どちらも高速なスイッチング技術を利用するが、音響システム内で担当する機能は異なる。

AC Power
   ↓
Switching Power Supply
   ↓
DC Power
   ↓
Class-D Amplifier
   ↓
Speaker

スイッチング電源は、アンプに必要な電源電圧を生成する。

Class Dアンプは、その電源から供給された電力を音声信号に応じて制御し、スピーカーを駆動する。

現代のPA用パワーアンプでは、Class D出力段とスイッチング電源を組み合わせることで、高出力と軽量化を両立する製品が多い。

PA用パワーアンプ

大出力PAアンプではClass Dが広く使用されている。

PAでは数百Wから数kWの出力を扱うため、高い電力効率によって、

  • 発熱を抑える
  • ヒートシンクを小型化する
  • 冷却機構を小型化する
  • アンプを軽量化する
  • ラック内の熱負荷を減らす
  • 消費電力を抑える

といった利点を得られる。

Yamahaは、Class D回路の発展によって高品質な音響性能が実現され、現代のパワーアンプで主要な方式になったと説明している。[1]

パワードスピーカー

パワードスピーカーにもClass Dアンプが広く使用されている。

2ウェイのパワードスピーカーでは、例えば次のような構成を取ることができる。

Audio Input
     ↓
    DSP
     ↓
  Crossover
    ↓   ↓
   LF   HF
    ↓   ↓
Class-D Class-D
  Amp     Amp
    ↓     ↓
Woofer  HF Driver

この構成では、低域用ドライバーと高域用ドライバーをそれぞれ専用のアンプで駆動できる。

Class Dは発熱と重量を抑えやすいため、アンプと電源をスピーカー筐体内へ組み込むパワードスピーカーに適している。

ポータブル機器

Class Dは、

  • スマートフォン
  • ノートPC
  • Bluetoothスピーカー
  • 携帯型オーディオ機器
  • 車載オーディオ

などでも使用されている。

これらの機器では、アンプの消費電力が、

  • バッテリー動作時間
  • 装置の発熱
  • 筐体サイズ

に直接影響する。

Class Dの高効率は、小型・バッテリー駆動機器でも有効である。[2]

保護回路

実際のClass Dパワーアンプには、出力段を保護するための回路が組み込まれることが多い。

代表的なものには、

  • 過電流保護
  • 出力短絡保護
  • 過熱保護
  • 低電圧保護
  • shoot-through保護

などがある。

高出力のClass Dアンプでは、大電流と高速スイッチングを扱うため、保護回路も重要な構成要素となる。

主な特徴

Class Dアンプの主な特徴には、

  • 高い電力効率
  • 発熱を抑えやすい
  • 小型化しやすい
  • 軽量化しやすい
  • 大出力化しやすい
  • バッテリー機器に適している

などがある。

設計上は、

  • EMI
  • スイッチング損失
  • 出力フィルター
  • デッドタイム
  • 負帰還ループ
  • MOSFETの特性
  • PCBレイアウト
  • 負荷インピーダンス

などが重要な要素となる。

まとめ

クラスDアンプは、パワートランジスタを高速にスイッチングさせて音声信号を電力増幅するアンプである。

典型的な構成では、

Audio Signal
     ↓
 Modulator
     ↓
Switching Power Stage
     ↓
 Low-pass Filter
     ↓
   Speaker

という信号経路を持つ。

出力トランジスタを主としてONまたはOFFの状態で動作させることで、出力段で熱として失われる電力を抑え、高い電力効率を得ることができる。

高周波スイッチングを使用するため、出力フィルター、EMI、デッドタイム、フィードバック、回路レイアウトなどは重要な設計要素となる。

Class Dの「D」はDigitalを意味せず、アンプの動作クラスを表す名称である。

高効率、小型、軽量という特性から、現代ではPA用パワーアンプ、パワードスピーカー、車載オーディオ、家庭用オーディオ、ポータブル機器など幅広い用途で使用されている。

脚注

関連項目