パワーアンプ: Difference between revisions

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'''クラスDアンプ'''(英: Class-D amplifier、'''D級アンプ''')は、出力素子を高速にスイッチングさせて音声信号を電力増幅する[[アンプ]]である。高い電力効率を得やすく、[[パワーアンプ]]、[[パワードスピーカー]]、車載オーディオ、家庭用オーディオ、携帯機器などで広く使用されている。<ref name="YamahaClassD">[https://usa.yamaha.com/products/contents/proaudio/training_support/micro_tutorial/20170914/index.html Yamaha, “Power Amplifiers Part One: Amplifier Classes, AKA ‘The Beautiful Invention of the Transistor’”]</ref><ref name="ADIClassD">[https://www.analog.com/en/resources/analog-dialogue/articles/class-d-audio-amplifiers.html Analog Devices, “Class D Audio Amplifiers: What, Why, and How”]</ref>
<languages />


典型的なクラスDアンプでは、音声信号の情報を高周波のパルス列として表現し、そのパルス信号によってMOSFETなどの出力素子をON/OFFさせる。
<translate>
'''パワーアンプ'''(英: power amplifier)は、音声信号を[[スピーカー]]を駆動できる電力まで増幅する音響機器である。PAシステムでは、[[ミキサー]]、[[DSP]]、[[クロスオーバー]]などから受け取った信号を増幅し、[[パッシブスピーカー]]へ出力する役割を持つ。<ref name="YamahaPowerAmp">[https://jp.yamaha.com/products/contents/proaudio/musicianspa/equipments/amplifier.html ヤマハ「音を増幅するパワーアンプとは」]</ref>


<pre>
典型的なPAシステムでは、次のような位置に置かれる。
Audio Input
    ↓
Modulator
    ↓
Switching Control Signal
    ↓
Power Output Stage
    ↓
Output Filter
    ↓
  Speaker
</pre>
 
出力素子を主としてONまたはOFFの状態で動作させることで、出力素子内部で熱として失われる電力を抑えられる。これがクラスDアンプの高効率の基礎となる。<ref name="ADIClassD" />
 
== 基本原理 ==
 
オーディオ用パワーアンプは、入力された音声信号に対応した電圧と電流を負荷へ供給し、スピーカーを駆動する。
 
Class A、Class B、Class ABなどのリニアアンプでは、出力トランジスタを連続的な導通状態で制御して出力波形を形成する。
 
クラスDアンプでは、出力トランジスタを高速なスイッチとして使用する。


<pre>
<pre>
ON
Microphone / Instrument
OFF
          ↓
ON
        Mixer
OFF
          ↓
ON
  DSP / Crossover
OFF
          ↓
...
    Power Amplifier
          ↓
  Passive Speaker
</pre>
</pre>


スイッチングの時間的なパターンに音声信号の情報を持たせ、出力段から得られる高周波のスイッチング波形を最終的に音声帯域の信号として負荷へ供給する。<ref name="ADIClassD" />
パワーアンプは単体の機器として使用されるほか、[[パワードスピーカー]]や[[パワードミキサー]]の内部にも組み込まれている。<ref name="YamahaPowerAmp" />


== 「D」とDigital ==
== 基本的な役割 ==


Class Dの「D」はDigitalの略ではない。
マイク、電子楽器、オーディオインターフェース、ミキサーなどで扱われる音声信号は、通常そのまま大型のパッシブスピーカーを駆動するだけの電力を持たない。


Class A、Class B、Class Cに続くアンプの動作クラスとしてClass Dという名称が使用された。YamahaもClass Dの「D」はdigitalを意味しないと説明している。<ref name="YamahaClassD" />
パワーアンプは入力された音声信号に対応して出力電圧と電流を供給し、スピーカーのボイスコイルを駆動する。


クラスDアンプはアナログ入力から構成することもできる。
概念的には次のように表せる。


<pre>
<pre>
Analog Audio
音声信号
    ↓
  ↓
Analog Modulator
Power Amplifier
    ↓
  ↓
Class-D Output Stage
大きな電力を持つ音声信号
</pre>
  ↓
 
Loudspeaker
一方、デジタルオーディオ信号を[[DSP]]などで処理してClass D出力段を駆動する構成も存在する。
 
<pre>
Digital Audio
    ↓
DSP / Modulator
    ↓
Class-D Output Stage
</pre>
</pre>


Class Dという分類は、入力信号がデジタルであるかアナログであるかではなく、主として出力段のスイッチング動作に基づく。
パワーアンプは音響システムの最終増幅段として使用されることが多い。


== PWM ==
== プリアンプとの関係 ==


クラスDアンプで広く使用される変調方式の一つが[[PWM]](Pulse Width Modulation、パルス幅変調)である。
音響機器では、信号の増幅を複数の段階に分けて行う。


PWMでは、パルスの幅、すなわちデューティ比を音声信号に応じて変化させる。
[[プリアンプ]]は、マイクや楽器などの比較的小さな信号を後段の機器で扱いやすいレベルへ増幅したり、ゲイン調整や信号処理を行ったりする。


例えば、単純化すると、
パワーアンプは信号経路の後段に置かれ、スピーカーを駆動するための電力を供給する。


<pre>
<pre>
小さな正方向の信号
Microphone
→ ON時間がやや長い
  ↓
 
Preamp
大きな正方向の信号
  ↓
→ ON時間がさらに長い
Mixer / Processor
 
  ↓
負方向の信号
Power Amplifier
→ 反対側の状態に対応する時間が長い
  ↓
</pre>
Speaker
 
という関係になる。
 
固定周波数PWMの一例では、入力された音声信号と高周波の三角波を比較してパルス列を生成する。<ref name="ADIClassD" />
 
<pre>
Audio Signal ─────────┐
                      ↓
                  Comparator
                      ↑
Triangle Wave ────────┘
                      ↓
                    PWM
</pre>
</pre>


PWMは代表的な方式であるが、Class Dの変調方式はPWMだけではない。Analog Devicesは、PWMのほか、パルス密度やΣΔ変調に関連する方式など複数のClass D変調方式を解説している。<ref name="ADIClassD" />
実際の機器では、これらの機能が一つの筐体に統合される場合もある。


== 出力段 ==
== パッシブスピーカーとの関係 ==


クラスDアンプの出力段には、[[MOSFET]]などのパワートランジスタが使用される。
単体のパワーアンプは、主に[[パッシブスピーカー]]と組み合わせて使用する。


典型的なハーフブリッジ出力段は次のような構成を持つ。
パッシブスピーカーは内部にパワーアンプを持たず、外部のパワーアンプから供給された電力によってドライバーを駆動する。


<pre>
<pre>
    +V
Mixer
      |
  ↓
High-side MOSFET
Power Amplifier
      |
  ↓
      +──── Output
Passive Speaker
      |
Low-side MOSFET
      |
    GND
</pre>
</pre>


High-side MOSFETとLow-side MOSFETを交互にON/OFFすることによって、出力ノードを電源側とGND側へ高速に切り替える。
[[パワードスピーカー]]は筐体内部にパワーアンプを備えている。
 
出力波形は、高周波の矩形波またはそれに近いスイッチング波形になる。


<pre>
<pre>
+V  ┌───┐   ┌─────┐    ┌─
Mixer
    │   │   │    │    │
   ↓
0V ─┘   └───┘    └─────┘
Powered Speaker
   ├─ DSP / Crossover
   ├─ Power Amplifier
   └─ Speaker Driver
</pre>
</pre>


このスイッチング波形の時間的な情報が、最終的な音声波形に対応する。
ヤマハは、パワーアンプを内蔵していないスピーカーをパッシブスピーカー、パワーアンプを内蔵したスピーカーをパワードスピーカーとして説明している。<ref name="YamahaPowerAmp" />


== 高い電力効率 ==
スタジオで使用される[[パワードモニタースピーカー]]も、この構成の一例である。


クラスDアンプの主要な特徴は、高い電力効率を得やすいことである。
== 出力 ==


パワートランジスタで発生する瞬間的な電力損失は、概念的には、
パワーアンプの出力能力は一般にワット(W)で示される。


<pre>
例えば、
Power Loss = Voltage × Current
</pre>
 
で考えることができる。
 
出力トランジスタがOFFしているときには、理想的には電流がほとんど流れない。


<pre>
<pre>
OFF:
300 W × 2 @ 8 Ω
Current ≈ 0
500 W × 2 @ 4 Ω
</pre>
</pre>


ONしているときには、MOSFETのON抵抗が十分に低ければ、トランジスタ両端の電圧を小さくできる。
という仕様であれば、8 Ωの負荷では1チャンネルあたり300 W、4 Ωの負荷では1チャンネルあたり500 Wを供給できることを示す。


<pre>
パワーアンプの出力値は、接続されるスピーカーの[[インピーダンス]]によって変化する。多くのアンプでは、一定の範囲内で負荷インピーダンスが低くなるほど供給可能な出力が増加する。<ref name="YamahaPowerAmp" />
ON:
Voltage across MOSFET ≈ small
</pre>


このため、出力素子が中間的な導通状態で長時間動作するリニアアンプと比較して、出力段の損失を小さくしやすい。Analog DevicesはClass Dアンプについて、90%以上の効率を実現する設計が一般的に可能であることを説明している。<ref name="ADIClassD" />
実際の定格出力には、


高効率化によって、
* 負荷インピーダンス
* 測定周波数
* 歪率
* 測定時間
* 同時に駆動するチャンネル数


* 発熱の低減
などの測定条件が付記されることがある。
* ヒートシンクの小型化
* 筐体の小型化
* 装置の軽量化
* 消費電力の低減
* バッテリー動作時間の延長


などが可能になる。
そのため、異なるパワーアンプのワット数を比較するときには測定条件も確認する。


特に数百Wから数kWを扱うPA用パワーアンプでは、発熱と重量を抑えられることが大きな利点となる。
== インピーダンス ==


== 実際の電力損失 ==
パワーアンプには、正常に駆動できる最低負荷インピーダンスが定められている。


実際のクラスDアンプの効率は100%にはならない。
PA用スピーカーでは4 Ω、8 Ωなどの公称インピーダンスが一般的に使用される。


主な損失には、
同じインピーダンスを持つ2台のスピーカーを並列接続すると、合成インピーダンスは半分になる。


* MOSFETのON抵抗による導通損失
例えば、
* ON/OFF切り替え時のスイッチング損失
* MOSFETのゲート駆動に必要な電力
* 出力フィルターの損失
* 制御回路の消費電力
* 電源回路の損失
 
などがある。<ref name="ADIClassD" />
 
MOSFETが完全なON状態またはOFF状態へ瞬時に移行することはできないため、切り替え中には電圧と電流が同時に存在する時間が生じる。
 
<pre>
OFF
↓
Switching transition
↓
ON
</pre>
 
スイッチング周波数、出力電力、MOSFETの特性、ゲートドライバー、回路レイアウトなどが実際の損失に影響する。
 
== 出力フィルター ==
 
Class D出力段から得られる信号には、音声成分とともに高周波のスイッチング成分が含まれる。
 
多くの設計では、[[LCフィルター]]による[[ローパスフィルター]]を出力段の後に配置する。<ref name="ADIClassD" />


<pre>
<pre>
Switching Output
8 Ω + 8 Ω
      ↓
Parallel Connection
    LC Filter
      ↓
Audio-frequency
    Signal
       ↓
       ↓
    Speaker
      4 Ω
</pre>
</pre>


Lはインダクター、Cはコンデンサーを表す。
となる。
 
LCローパスフィルターは、高周波のスイッチング成分を減衰させながら、可聴帯域の成分をスピーカーへ供給する。


出力フィルターの特性は、接続されるスピーカーの[[インピーダンス]]とも関係する。したがって、フィルター設計と負荷条件の組み合わせはClass Dアンプの周波数特性や安定性に影響する。<ref name="ADIClassD" />
8 Ωのスピーカーを2台並列に接続した場合、パワーアンプから見た負荷は4 Ωとなる。<ref name="YamahaPowerAmp" />


== フィルターレスClass D ==
スピーカーを追加して負荷インピーダンスが低下すると、パワーアンプに要求される電流も増える。


小出力のクラスDアンプには、外付けLC出力フィルターを必要としない設計も存在する。
アンプが対応する最低インピーダンスより低い負荷を接続すると、保護回路の作動、過熱、動作停止、故障などにつながる可能性がある。Crownも、アンプのシリーズや動作モードごとに使用可能なスピーカー負荷を示している。<ref>[https://www.crownaudio.com/ja/speaker-loads Crown Audio「スピーカー負荷とアンプのマッチング」]</ref>


このような方式では、差動出力の変調方式やスピーカー自身のインダクタンスを利用して、高周波成分やEMIを管理する。<ref name="ADIFundamentals">[https://www.analog.com/en/resources/technical-articles/fundamentals-of-class-d-amplifiers.html Analog Devices, “Class D Amplifiers: Fundamentals of Operation and Recent Developments”]</ref>
== スピーカーとの出力の組み合わせ ==


Texas InstrumentsのTPA3137D2は、外付けインダクターを不要とする低EMIのClass Dアンプの一例である。<ref>[https://www.ti.com/product/TPA3137D2 Texas Instruments, TPA3137D2]</ref>
パワーアンプを選定するときには、スピーカー側の仕様も確認する。


スマートフォン、ノートPC、小型Bluetoothスピーカーなどでは、部品点数、基板面積、コストを削減できる点が利点となる。
主な項目は、


== スイッチング周波数 ==
* 公称インピーダンス
* 連続許容入力
* PGM許容入力
* Peak許容入力
* スピーカー感度


クラスDアンプの出力段は、通常、可聴帯域より十分に高い周波数でスイッチングする。
などである。


スイッチング周波数を高くすると、
スピーカーの許容入力には複数の表記方法があり、メーカーや規格によって基準が異なる。


* 可聴帯域とスイッチング成分を分離しやすい
例えばヤマハのPAビギナーズガイドでは、同社製パッシブスピーカーを組み合わせる際の目安として、スピーカーのPGM入力値に対して約0.8~1.25倍のアンプ出力を紹介している。<ref name="YamahaPowerAmp" />
* 出力フィルターを小型化しやすい


といった利点がある。
CrownはContinuous Power Ratingを基準にし、リミッターの使用や必要なヘッドルームを考慮した別の選定方法を紹介している。<ref>[https://www.crownaudio.com/ja/how-much-amplifier-power Crown Audio「アンプの出力はどれくらい必要ですか?」]</ref>


一方で、
実際のシステム設計では、使用するメーカーが定義する許容入力、音声信号のピーク、リミッター設定、必要な音圧などを合わせて検討する。


* スイッチング損失
アンプのワット数だけで実際の音量が決まるわけではなく、スピーカーの感度や使用環境も音圧に影響する。<ref>[https://www.crownaudio.com/ja/how-much-amplifier-power Crown Audio「アンプの出力はどれくらい必要ですか?」]</ref>
* ゲート駆動損失
* EMI
* PCBレイアウトへの要求


なども増加する。
== 動作モード ==


実際のスイッチング周波数は、出力電力、効率、歪み、EMI、使用するMOSFET、フィルター設計などを考慮して決定される。
2チャンネル以上のパワーアンプでは、複数の動作モードを備える製品がある。


== デッドタイム ==
=== Stereo ===


ハーフブリッジなどのClass D出力段では、High-side MOSFETとLow-side MOSFETが同時にONすると、電源からGNDへ直接大電流が流れる。
各アンプチャンネルを独立して使用する基本的なモード。


<pre>
<pre>
+V
Input 1 → Amplifier CH1 → Speaker 1
  |
Input 2 → Amplifier CH2 → Speaker 2
MOSFET ON
  |
  |
MOSFET ON
  |
GND
</pre>
</pre>


この状態は'''shoot-through'''(貫通電流)と呼ばれる。
左右のステレオPAや、独立した2系統のスピーカーを駆動するときに使用される。
 
=== Parallel ===


shoot-throughを防ぐため、一方のMOSFETをOFFした後、短い時間を置いてからもう一方をONする。
1つの入力信号を複数のアンプチャンネルへ送り、それぞれのチャンネルから独立して出力するモード。


<pre>
<pre>
High-side OFF
            ┌→ CH1 → Speaker 1
      ↓
Input ───────┤
  Dead Time
            └→ CH2 → Speaker 2
      ↓
Low-side ON
</pre>
</pre>


この時間を'''デッドタイム'''(dead time)という。
モノラル信号を複数のスピーカー系統へ供給する場合などに使用される。
 
Analog Devicesは、shoot-throughを避けるためのデッドタイムがパルス幅の誤差を生み、歪みの原因になることを解説している。<ref name="ADIClassD" />


デッドタイムが短すぎるとshoot-throughの危険が増え、長すぎると出力波形の時間的誤差が増える。
=== Bridge-Mono ===


このため、Class D出力段では安全なスイッチングと低歪みを両立するデッドタイム制御が重要になる。
2つのアンプチャンネルを組み合わせ、1つのスピーカー負荷を駆動するモード。
 
== 負帰還 ==
 
多くのクラスDアンプでは[[負帰還]]を使用する。


<pre>
<pre>
Input
Amplifier CH1 ──┐
  ↓
                ├── Speaker
Amplifier ─────────→ Output
Amplifier CH2 ──┘
  ↑                    |
  └──── Feedback ──────┘
</pre>
</pre>


出力信号の一部を入力側へ戻して制御することで、
2つのチャンネルを利用して、1系統へより大きな出力電圧を供給できる。
 
* 出力段の非線形性
* 電源電圧の変動
* 変調器の誤差
* スイッチングタイミングの誤差


などの影響を低減できる。<ref name="ADIClassD" />
詳細は[[ブリッジモノモード]]を参照。


帰還信号を取り出す位置や制御方式は設計によって異なる。
ブリッジ接続では通常のStereo接続と使用する出力端子や負荷条件が異なる場合がある。ヤマハおよびCrownの資料でも、StereoとBridge動作では出力値と対応負荷が個別に規定されている。<ref name="YamahaPowerAmp" /><ref>[https://www.crownaudio.com/ja/speaker-loads Crown Audio「スピーカー負荷とアンプのマッチング」]</ref>


出力フィルターより前から帰還を取る方式のほか、出力フィルター後のスピーカー端子側から帰還を取る方式も存在する。
== ゲインと入力感度 ==


後者はPost-Filter Feedbackなどと呼ばれ、出力フィルターや負荷の影響を制御ループへ含めることができる。
パワーアンプには、入力された信号をどの程度の電圧比で増幅するかを示す'''電圧利得(Voltage Gain)'''がある。


== EMI ==
また、定格出力を得るために必要な入力信号レベルを'''入力感度(Input Sensitivity)'''という。


クラスDアンプは高速な電圧変化を伴うスイッチング波形を扱うため、[[EMI]](Electromagnetic Interference、電磁干渉)への対策が重要になる。
業務用パワーアンプでは、


<pre>
<pre>
Fast switching edges
26 dB
        ↓
32 dB
High-frequency energy
        ↓
PCB / Cable / Inductor
        ↓
Radiated / Conducted EMI
</pre>
</pre>


高周波エネルギーは、
などの固定ゲイン設定や、


* PCB配線
<pre>
* 電源配線
+4 dBu
* 出力インダクター
+14 dBu
* スピーカーケーブル
</pre>


などを経由して放射または伝導する可能性がある。
などを基準にした入力感度設定を選択できる製品もある。


Analog DevicesはClass Dアンプの設計課題としてEMIを挙げ、特に高周波電流が流れるループ面積の低減、出力フィルターやスピーカー配線の配置などを重要な要素としている。<ref name="ADIClassD" />
例えばヤマハPC-D / DIシリーズでは、複数の電圧利得および入力感度設定が用意されている。<ref>[https://jp.yamaha.com/products/proaudio/power_amps/pc-d_di/specs.html ヤマハ PC-D / DI Series 仕様]</ref>


Class Dアンプでは、オーディオ帯域の性能だけでなく、高周波回路としてのレイアウトやEMC設計も重要になる。
この設定は、ミキサー、DSP、複数台のパワーアンプなどを組み合わせる際の[[ゲインストラクチャー]]に関係する。


== Half-Bridge ==
== 増幅方式 ==


Class Dの基本的な出力回路の一つがHalf-Bridge(ハーフブリッジ)である。
パワーアンプの出力回路には複数の増幅方式が存在する。


<pre>
代表的なものには、
        +V
        |
      MOSFET
        |
Output ──+
        |
      MOSFET
        |
        GND
</pre>


2個のスイッチング素子を使用し、出力ノードを電源側とGND側へ交互に接続する。
* Class A
* Class B
* Class AB
* Class D
* Class G
* Class H


単電源でHalf-Bridgeを使用する場合、回路方式によってはスピーカー側へ直流成分を印加しないための処理が必要になる。<ref name="ADIClassD" />
などがある。
 
== Full-Bridge / BTL ==
 
2組のHalf-Bridgeを使用して負荷の両端を駆動する構成をFull-Bridgeまたは[[BTL]](Bridge-Tied Load)という。


<pre>
Class ABは長くオーディオ用パワーアンプで広く使用されてきた方式である。
Half-Bridge A
      |
      +──── Speaker ────+
                        |
                Half-Bridge B
</pre>


2つの出力を逆方向へ動作させることで、スピーカー両端の電圧差を大きくできる。
Class Dは出力素子を高速にスイッチングさせることで高い電力効率を得る方式で、現代のPA用パワーアンプやパワードスピーカーで広く使用されている。高効率化によって発熱、重量、電源消費を抑えやすいという特徴を持つ。<ref>[https://usa.yamaha.com/products/contents/proaudio/training_support/micro_tutorial/20170914/index.html Yamaha, "Power Amplifiers Part One: Amplifier Classes"]</ref>


例えば、
ヤマハのPC-D / DIシリーズなど、現行の業務用パワーアンプにもClass D出力段が採用されている。<ref>[https://jp.yamaha.com/products/proaudio/power_amps/pc-d_di/specs.html ヤマハ PC-D / DI Series 仕様]</ref>


<pre>
詳細は[[アンプの動作クラス]]および[[Class Dアンプ]]を参照。
Output A = +10 V
Output B = -10 V
</pre>


であれば、スピーカー両端の電圧差は、
== DSPを内蔵したパワーアンプ ==


<pre>
現代のPA用パワーアンプには、[[DSP]]を内蔵する製品も多い。
+10 V - (-10 V) = 20 V
</pre>


となる。
DSPによって、


BTL構成は小型のClass D ICから大出力アンプまで広く使用される。<ref name="ADIClassD" />
* [[クロスオーバー]]
* [[イコライザー]]
* [[ディレイ]]
* [[リミッター]]
* スピーカープロセッシング
* 信号ルーティング


== ブリッジモノモードとの関係 ==
などをパワーアンプ内部で行うことができる。


BTLと[[ブリッジモノモード]]には、負荷の両端を逆方向の出力で駆動するという共通した原理がある。
ヤマハも、近年の単体PAパワーアンプではDSPを内蔵した製品が一般的になっているとしている。<ref name="YamahaPowerAmp" />


Class DアンプのBTLでは、一つのアンプチャンネルの出力段そのものをFull-Bridge構成として設計することがある。
このタイプでは、


<pre>
<pre>
One amplifier channel
Mixer
      ↓
  ↓
Full-Bridge / BTL output
Power Amplifier
      ↓
  ├─ DSP
Speaker
  ├─ Limiter
  ├─ Crossover
  └─ Power Stage
      ↓
    Speaker
</pre>
</pre>


PA用2チャンネルパワーアンプのブリッジモノモードでは、通常は独立して使用できる2つのアンプチャンネルを組み合わせて、一つの負荷を駆動する。
のように、従来は外部機器で行われていた処理の一部をアンプ内部で実行できる。
 
<pre>
Amplifier Channel 1 ──┐
                      ├── Speaker
Amplifier Channel 2 ──┘
</pre>


両者は「負荷の両端を能動的に駆動する」という考え方を共有するが、アンプシステムの中で適用される階層は異なる。
== 入出力端子 ==


詳細は[[ブリッジモノモード]]および[[モノブリッジケーブル]]を参照。
業務用パワーアンプの入力には、


== Class ABとの比較 ==
* XLR
* TRSフォーン
* Euroblock / Phoenix
* RCA


Class ABとClass Dは、どちらもオーディオ用パワーアンプで広く使用される。
などが使用される。


{| class="wikitable"
用途や機種によって端子構成は異なる。
! 項目
! Class AB
! Class D
|-
| 出力段の基本動作
| リニア動作
| スイッチング動作
|-
| 電力効率
| 中程度
| 高くしやすい
|-
| 発熱
| 大きくなりやすい
| 小さくしやすい
|-
| 大型ヒートシンク
| 必要になる場合がある
| 小型化しやすい
|-
| 高周波スイッチング
| 原則として使用しない
| 使用する
|-
| 出力LCフィルター
| 通常は使用しない
| 多くの回路で使用する
|-
| EMI対策
| 比較的単純
| 重要な設計要素
|}


増幅クラスだけでアンプの音響性能が決まるわけではない。
スピーカー出力には、


実際の性能は、
* [[speakON]]
* バインディングポスト
* スクリューターミナル
* スピーカー用フォーン端子


* 回路トポロジー
などが使用される。
* 変調方式
* フィードバック方式
* MOSFET
* デッドタイム
* 電源
* 出力フィルター
* PCBレイアウト
* 負荷条件


などの影響を受ける。
PA用途では、ロック機構を持ち、大電流を扱えるspeakONが広く使用されている。ヤマハもプロ用パワーアンプとスピーカーを接続する端子としてspeakONを紹介している。<ref name="YamahaPowerAmp" />


Analog Devicesは、適切に設計された閉ループClass Dアンプで高い電源除去性能と低歪みを実現できることを説明している。<ref name="ADIClassD" />
== スピーカーケーブル ==


== スイッチング電源との関係 ==
パワーアンプとパッシブスピーカーの間には[[スピーカーケーブル]]を使用する。


Class Dと[[スイッチング電源]](SMPS)は、どちらも高速なスイッチング技術を利用するが、音響システム内で担当する機能は異なる。
スピーカーケーブルは、パワーアンプから供給される比較的大きな電流を伝送するため、用途に適した導体断面積を持つケーブルが使用される。


<pre>
<pre>
AC Power
Mixer
   ↓
   │
Switching Power Supply
  │ XLR / TRSなど
   ↓
   │ Line-level cable
DC Power
   ↓
   ↓
Class-D Amplifier
Power Amplifier
  │
  │ Speaker cable
   ↓
   ↓
Speaker
Passive Speaker
</pre>
</pre>


スイッチング電源は、アンプに必要な電源電圧を生成する。
マイクケーブルや一般的なラインケーブルは、パワーアンプとパッシブスピーカーを接続するスピーカーケーブルとして設計されていない。
 
Class Dアンプは、その電源から供給された電力を音声信号に応じて制御し、スピーカーを駆動する。
 
現代のPA用パワーアンプでは、Class D出力段とスイッチング電源を組み合わせることで、高出力と軽量化を両立する製品が多い。


== PA用パワーアンプ ==
ヤマハは、マイク/楽器用ケーブルをスピーカー接続に使用すると発熱する可能性があるとして、スピーカー専用ケーブルの使用を案内している。<ref name="YamahaPowerAmp" />


大出力PAアンプではClass Dが広く使用されている。
== ハイインピーダンス出力 ==


PAでは数百Wから数kWの出力を扱うため、高い電力効率によって、
設備音響用のパワーアンプには、一般的な4 Ωや8 Ωのローインピーダンス出力に加えて、


* 発熱を抑える
* 70 V
* ヒートシンクを小型化する
* 100 V
* 冷却機構を小型化する
* アンプを軽量化する
* ラック内の熱負荷を減らす
* 消費電力を抑える


といった利点を得られる。
などの[[ハイインピーダンススピーカーシステム]]に対応する製品がある。


Yamahaは、Class D回路の発展によって高品質な音響性能が実現され、現代のパワーアンプで主要な方式になったと説明している。<ref name="YamahaClassD" />
ハイインピーダンス方式は、多数のスピーカーを長距離配線する商業施設、学校、公共施設などの設備音響で使用される。


== パワードスピーカー ==
例えばヤマハPC-DIシリーズには70 Vおよび100 Vモードを備えたモデルが存在する。<ref>[https://jp.yamaha.com/products/proaudio/power_amps/pc-d_di/specs.html ヤマハ PC-D / DI Series 仕様]</ref>


[[パワードスピーカー]]にもClass Dアンプが広く使用されている。
== 保護機能 ==


2ウェイのパワードスピーカーでは、例えば次のような構成を取ることができる。
パワーアンプは大きな電力を扱うため、多くの製品に保護機能が搭載されている。
 
<pre>
Audio Input
    ↓
    DSP
    ↓
  Crossover
    ↓  ↓
  LF  HF
    ↓  ↓
Class-D Class-D
  Amp    Amp
    ↓    ↓
Woofer  HF Driver
</pre>
 
この構成では、低域用ドライバーと高域用ドライバーをそれぞれ専用のアンプで駆動できる。
 
Class Dは発熱と重量を抑えやすいため、アンプと電源をスピーカー筐体内へ組み込むパワードスピーカーに適している。
 
== ポータブル機器 ==
 
Class Dは、
 
* スマートフォン
* ノートPC
* Bluetoothスピーカー
* 携帯型オーディオ機器
* 車載オーディオ
 
などでも使用されている。
 
これらの機器では、アンプの消費電力が、
 
* バッテリー動作時間
* 装置の発熱
* 筐体サイズ
 
に直接影響する。
 
Class Dの高効率は、小型・バッテリー駆動機器でも有効である。<ref name="ADIClassD" />
 
== 保護回路 ==
 
実際のClass Dパワーアンプには、出力段を保護するための回路が組み込まれることが多い。


代表的なものには、
代表的なものには、


* 過熱保護
* 過電流保護
* 過電流保護
* 出力短絡保護
* 出力短絡保護
* 過熱保護
* DC保護
* 低電圧保護
* クリップリミッター
* shoot-through保護
* スピーカー保護用リミッター


などがある。
などがある。


高出力のClass Dアンプでは、大電流と高速スイッチングを扱うため、保護回路も重要な構成要素となる。
機種によって保護方式や動作条件は異なる。
 
== 主な特徴 ==
 
Class Dアンプの主な特徴には、
 
* 高い電力効率
* 発熱を抑えやすい
* 小型化しやすい
* 軽量化しやすい
* 大出力化しやすい
* バッテリー機器に適している


などがある。
== 選定時に確認する主な仕様 ==


設計上は、
パワーアンプを選定するときには、主に次の項目を確認する。


* EMI
* チャンネル数
* スイッチング損失
* 負荷インピーダンスごとの定格出力
* 出力フィルター
* 最低負荷インピーダンス
* デッドタイム
* Bridge-Mono対応
* 負帰還ループ
* 入力感度
* MOSFETの特性
* 電圧利得
* PCBレイアウト
* 入力端子
* 負荷インピーダンス
* スピーカー出力端子
* DSP機能
* リミッター機能
* 周波数特性
* S/N比
* THD+N
* 冷却方式
* 消費電力
* 重量


などが重要な要素となる。
スピーカーとの組み合わせでは、アンプ側の出力仕様とスピーカー側のインピーダンスおよび許容入力を同時に確認する。


== まとめ ==
== まとめ ==


クラスDアンプは、パワートランジスタを高速にスイッチングさせて音声信号を電力増幅するアンプである。
パワーアンプは、音響システムの中でスピーカーを駆動するための電力を供給する増幅器である。


典型的な構成では、
PAシステムでは、


<pre>
<pre>
Audio Signal
Mixer / DSP
    ↓
Modulator
     ↓
     ↓
Switching Power Stage
Power Amplifier
     ↓
     ↓
Low-pass Filter
Passive Speaker
    ↓
  Speaker
</pre>
</pre>


という信号経路を持つ。
という信号経路を構成する。


出力トランジスタを主としてONまたはOFFの状態で動作させることで、出力段で熱として失われる電力を抑え、高い電力効率を得ることができる。
パワーアンプの動作は、接続するスピーカーのインピーダンスと密接に関係しており、同じアンプでも4 Ω、8 Ωなどの負荷によって出力が変化する。


高周波スイッチングを使用するため、出力フィルター、EMI、デッドタイム、フィードバック、回路レイアウトなどは重要な設計要素となる。
また、Stereo、Parallel、[[ブリッジモノモード]]など複数の動作方式を持つ機種や、DSP、リミッター、クロスオーバーなどを内蔵する機種も存在する。


Class Dの「D」はDigitalを意味せず、アンプの動作クラスを表す名称である。
パワードスピーカーでは、このパワーアンプ機能がスピーカー筐体内部に組み込まれている。
 
高効率、小型、軽量という特性から、現代ではPA用パワーアンプ、パワードスピーカー、車載オーディオ、家庭用オーディオ、ポータブル機器など幅広い用途で使用されている。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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* [[アンプ]]
* [[アンプ]]
* [[パワーアンプ]]
* [[プリアンプ]]
* [[アンプの動作クラス]]
* [[パッシブスピーカー]]
* [[Class Aアンプ]]
* [[パワードスピーカー]]
* [[Class Bアンプ]]
* [[スピーカー]]
* [[Class ABアンプ]]
* [[スピーカーケーブル]]
* [[PWM]]
* [[インピーダンス]]
* [[MOSFET]]
* [[LCフィルター]]
* [[ローパスフィルター]]
* [[負帰還]]
* [[BTL]]
* [[ブリッジモノモード]]
* [[ブリッジモノモード]]
* [[モノブリッジケーブル]]
* [[モノブリッジケーブル]]
* [[スイッチング電源]]
* [[speakON]]
* [[パワードスピーカー]]
* [[ゲインストラクチャー]]
* [[パッシブスピーカー]]
* [[DSP]]
* [[DSP]]
* [[EMI]]
* [[クロスオーバー]]
* [[リミッター]]
* [[Class Dアンプ]]


[[Category:アンプ]]
[[Category:音響機器]]
[[Category:音響機器]]
[[Category:PA]]
[[Category:PA]]
[[Category:電子回路]]
[[Category:アンプ]]
</translate>

Revision as of 01:01, 24 September 2026

パワーアンプ(英: power amplifier)は、音声信号をスピーカーを駆動できる電力まで増幅する音響機器である。PAシステムでは、ミキサー、DSP、クロスオーバーなどから受け取った信号を増幅し、パッシブスピーカーへ出力する役割を持つ。[1]

典型的なPAシステムでは、次のような位置に置かれる。

Microphone / Instrument
          ↓
        Mixer
          ↓
   DSP / Crossover
          ↓
     Power Amplifier
          ↓
   Passive Speaker

パワーアンプは単体の機器として使用されるほか、パワードスピーカーやパワードミキサーの内部にも組み込まれている。[1]

基本的な役割

マイク、電子楽器、オーディオインターフェース、ミキサーなどで扱われる音声信号は、通常そのまま大型のパッシブスピーカーを駆動するだけの電力を持たない。

パワーアンプは入力された音声信号に対応して出力電圧と電流を供給し、スピーカーのボイスコイルを駆動する。

概念的には次のように表せる。

音声信号
   ↓
Power Amplifier
   ↓
大きな電力を持つ音声信号
   ↓
Loudspeaker

パワーアンプは音響システムの最終増幅段として使用されることが多い。

プリアンプとの関係

音響機器では、信号の増幅を複数の段階に分けて行う。

プリアンプは、マイクや楽器などの比較的小さな信号を後段の機器で扱いやすいレベルへ増幅したり、ゲイン調整や信号処理を行ったりする。

パワーアンプは信号経路の後段に置かれ、スピーカーを駆動するための電力を供給する。

Microphone
   ↓
Preamp
   ↓
Mixer / Processor
   ↓
Power Amplifier
   ↓
Speaker

実際の機器では、これらの機能が一つの筐体に統合される場合もある。

パッシブスピーカーとの関係

単体のパワーアンプは、主にパッシブスピーカーと組み合わせて使用する。

パッシブスピーカーは内部にパワーアンプを持たず、外部のパワーアンプから供給された電力によってドライバーを駆動する。

Mixer
  ↓
Power Amplifier
  ↓
Passive Speaker

パワードスピーカーは筐体内部にパワーアンプを備えている。

Mixer
  ↓
Powered Speaker
  ├─ DSP / Crossover
  ├─ Power Amplifier
  └─ Speaker Driver

ヤマハは、パワーアンプを内蔵していないスピーカーをパッシブスピーカー、パワーアンプを内蔵したスピーカーをパワードスピーカーとして説明している。[1]

スタジオで使用されるパワードモニタースピーカーも、この構成の一例である。

出力

パワーアンプの出力能力は一般にワット(W)で示される。

例えば、

300 W × 2 @ 8 Ω
500 W × 2 @ 4 Ω

という仕様であれば、8 Ωの負荷では1チャンネルあたり300 W、4 Ωの負荷では1チャンネルあたり500 Wを供給できることを示す。

パワーアンプの出力値は、接続されるスピーカーのインピーダンスによって変化する。多くのアンプでは、一定の範囲内で負荷インピーダンスが低くなるほど供給可能な出力が増加する。[1]

実際の定格出力には、

  • 負荷インピーダンス
  • 測定周波数
  • 歪率
  • 測定時間
  • 同時に駆動するチャンネル数

などの測定条件が付記されることがある。

そのため、異なるパワーアンプのワット数を比較するときには測定条件も確認する。

インピーダンス

パワーアンプには、正常に駆動できる最低負荷インピーダンスが定められている。

PA用スピーカーでは4 Ω、8 Ωなどの公称インピーダンスが一般的に使用される。

同じインピーダンスを持つ2台のスピーカーを並列接続すると、合成インピーダンスは半分になる。

例えば、

8 Ω + 8 Ω
Parallel Connection
       ↓
      4 Ω

となる。

8 Ωのスピーカーを2台並列に接続した場合、パワーアンプから見た負荷は4 Ωとなる。[1]

スピーカーを追加して負荷インピーダンスが低下すると、パワーアンプに要求される電流も増える。

アンプが対応する最低インピーダンスより低い負荷を接続すると、保護回路の作動、過熱、動作停止、故障などにつながる可能性がある。Crownも、アンプのシリーズや動作モードごとに使用可能なスピーカー負荷を示している。[2]

スピーカーとの出力の組み合わせ

パワーアンプを選定するときには、スピーカー側の仕様も確認する。

主な項目は、

  • 公称インピーダンス
  • 連続許容入力
  • PGM許容入力
  • Peak許容入力
  • スピーカー感度

などである。

スピーカーの許容入力には複数の表記方法があり、メーカーや規格によって基準が異なる。

例えばヤマハのPAビギナーズガイドでは、同社製パッシブスピーカーを組み合わせる際の目安として、スピーカーのPGM入力値に対して約0.8~1.25倍のアンプ出力を紹介している。[1]

CrownはContinuous Power Ratingを基準にし、リミッターの使用や必要なヘッドルームを考慮した別の選定方法を紹介している。[3]

実際のシステム設計では、使用するメーカーが定義する許容入力、音声信号のピーク、リミッター設定、必要な音圧などを合わせて検討する。

アンプのワット数だけで実際の音量が決まるわけではなく、スピーカーの感度や使用環境も音圧に影響する。[4]

動作モード

2チャンネル以上のパワーアンプでは、複数の動作モードを備える製品がある。

Stereo

各アンプチャンネルを独立して使用する基本的なモード。

Input 1 → Amplifier CH1 → Speaker 1
Input 2 → Amplifier CH2 → Speaker 2

左右のステレオPAや、独立した2系統のスピーカーを駆動するときに使用される。

Parallel

1つの入力信号を複数のアンプチャンネルへ送り、それぞれのチャンネルから独立して出力するモード。

             ┌→ CH1 → Speaker 1
Input ───────┤
             └→ CH2 → Speaker 2

モノラル信号を複数のスピーカー系統へ供給する場合などに使用される。

Bridge-Mono

2つのアンプチャンネルを組み合わせ、1つのスピーカー負荷を駆動するモード。

Amplifier CH1 ──┐
                ├── Speaker
Amplifier CH2 ──┘

2つのチャンネルを利用して、1系統へより大きな出力電圧を供給できる。

詳細はブリッジモノモードを参照。

ブリッジ接続では通常のStereo接続と使用する出力端子や負荷条件が異なる場合がある。ヤマハおよびCrownの資料でも、StereoとBridge動作では出力値と対応負荷が個別に規定されている。[1][5]

ゲインと入力感度

パワーアンプには、入力された信号をどの程度の電圧比で増幅するかを示す電圧利得(Voltage Gain)がある。

また、定格出力を得るために必要な入力信号レベルを入力感度(Input Sensitivity)という。

業務用パワーアンプでは、

26 dB
32 dB

などの固定ゲイン設定や、

+4 dBu
+14 dBu

などを基準にした入力感度設定を選択できる製品もある。

例えばヤマハPC-D / DIシリーズでは、複数の電圧利得および入力感度設定が用意されている。[6]

この設定は、ミキサー、DSP、複数台のパワーアンプなどを組み合わせる際のゲインストラクチャーに関係する。

増幅方式

パワーアンプの出力回路には複数の増幅方式が存在する。

代表的なものには、

  • Class A
  • Class B
  • Class AB
  • Class D
  • Class G
  • Class H

などがある。

Class ABは長くオーディオ用パワーアンプで広く使用されてきた方式である。

Class Dは出力素子を高速にスイッチングさせることで高い電力効率を得る方式で、現代のPA用パワーアンプやパワードスピーカーで広く使用されている。高効率化によって発熱、重量、電源消費を抑えやすいという特徴を持つ。[7]

ヤマハのPC-D / DIシリーズなど、現行の業務用パワーアンプにもClass D出力段が採用されている。[8]

詳細はアンプの動作クラスおよびClass Dアンプを参照。

DSPを内蔵したパワーアンプ

現代のPA用パワーアンプには、DSPを内蔵する製品も多い。

DSPによって、

などをパワーアンプ内部で行うことができる。

ヤマハも、近年の単体PAパワーアンプではDSPを内蔵した製品が一般的になっているとしている。[1]

このタイプでは、

Mixer
  ↓
Power Amplifier
  ├─ DSP
  ├─ Limiter
  ├─ Crossover
  └─ Power Stage
       ↓
     Speaker

のように、従来は外部機器で行われていた処理の一部をアンプ内部で実行できる。

入出力端子

業務用パワーアンプの入力には、

  • XLR
  • TRSフォーン
  • Euroblock / Phoenix
  • RCA

などが使用される。

用途や機種によって端子構成は異なる。

スピーカー出力には、

  • speakON
  • バインディングポスト
  • スクリューターミナル
  • スピーカー用フォーン端子

などが使用される。

PA用途では、ロック機構を持ち、大電流を扱えるspeakONが広く使用されている。ヤマハもプロ用パワーアンプとスピーカーを接続する端子としてspeakONを紹介している。[1]

スピーカーケーブル

パワーアンプとパッシブスピーカーの間にはスピーカーケーブルを使用する。

スピーカーケーブルは、パワーアンプから供給される比較的大きな電流を伝送するため、用途に適した導体断面積を持つケーブルが使用される。

Mixer
   │
   │ XLR / TRSなど
   │ Line-level cable
   ↓
Power Amplifier
   │
   │ Speaker cable
   ↓
Passive Speaker

マイクケーブルや一般的なラインケーブルは、パワーアンプとパッシブスピーカーを接続するスピーカーケーブルとして設計されていない。

ヤマハは、マイク/楽器用ケーブルをスピーカー接続に使用すると発熱する可能性があるとして、スピーカー専用ケーブルの使用を案内している。[1]

ハイインピーダンス出力

設備音響用のパワーアンプには、一般的な4 Ωや8 Ωのローインピーダンス出力に加えて、

  • 70 V
  • 100 V

などのハイインピーダンススピーカーシステムに対応する製品がある。

ハイインピーダンス方式は、多数のスピーカーを長距離配線する商業施設、学校、公共施設などの設備音響で使用される。

例えばヤマハPC-DIシリーズには70 Vおよび100 Vモードを備えたモデルが存在する。[9]

保護機能

パワーアンプは大きな電力を扱うため、多くの製品に保護機能が搭載されている。

代表的なものには、

  • 過熱保護
  • 過電流保護
  • 出力短絡保護
  • DC保護
  • クリップリミッター
  • スピーカー保護用リミッター

などがある。

機種によって保護方式や動作条件は異なる。

選定時に確認する主な仕様

パワーアンプを選定するときには、主に次の項目を確認する。

  • チャンネル数
  • 負荷インピーダンスごとの定格出力
  • 最低負荷インピーダンス
  • Bridge-Mono対応
  • 入力感度
  • 電圧利得
  • 入力端子
  • スピーカー出力端子
  • DSP機能
  • リミッター機能
  • 周波数特性
  • S/N比
  • THD+N
  • 冷却方式
  • 消費電力
  • 重量

スピーカーとの組み合わせでは、アンプ側の出力仕様とスピーカー側のインピーダンスおよび許容入力を同時に確認する。

まとめ

パワーアンプは、音響システムの中でスピーカーを駆動するための電力を供給する増幅器である。

PAシステムでは、

Mixer / DSP
     ↓
Power Amplifier
     ↓
Passive Speaker

という信号経路を構成する。

パワーアンプの動作は、接続するスピーカーのインピーダンスと密接に関係しており、同じアンプでも4 Ω、8 Ωなどの負荷によって出力が変化する。

また、Stereo、Parallel、ブリッジモノモードなど複数の動作方式を持つ機種や、DSP、リミッター、クロスオーバーなどを内蔵する機種も存在する。

パワードスピーカーでは、このパワーアンプ機能がスピーカー筐体内部に組み込まれている。

脚注

関連項目